筑波大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,光学活性な液晶を反応環境とし,らせん方向のそろった高分子のリビング重合に成功した(ニュースリリース)。
DNAの二重らせん構造など,1950年代始めにらせん構造を持つ高分子が相次いで発見されて以来,人工的ならせん高分子合成の研究が高分子化学の分野で活発に行なわれてきた。らせん高分子を合成するためには,光学活性な触媒を用いたり,光学活性な置換基をモノマーに導入したりする方法がある。
研究グループはこれまでに,らせん構造を持つコレステリック液晶中で導電性高分子を合成するなど,電気化学的に光学回転角や円偏光二色性を制御できる光学活性材料を開発してきた。しかしながら,液晶中で,開始反応と生長反応のみからなり分子鎖長が精密に統制されたリビング重合を行なうことはできなかった。
研究グループは,らせん構造を持つことで知られるポリイソシアニドを,コレステリック液晶中でキラルではないニッケル触媒を用いて,リビング重合で合成することに成功した。反応溶媒の液晶は,攪拌や昇温,モノマーや触媒の濃度によって,らせん構造が壊れてしまう。この反応では,それらを克服するための最適条件を設定することで,リビング重合を可能とした。
重合反応中のポリイソシアニドは,時間とともに分子量は直線的に伸びる一方で,分子量分布は一定の値を示すという,リビング重合の特徴を示した。また,反応溶媒として用いたコレステリック液晶は,重合反応進行中も液晶性を保っていた。
さらに,得られたポリイソシアニドについて,放射光によるX線構造解析を行なったところ,らせん構造を持つツイストベンドネマチック液晶相であることが分かった。これを超伝導マグネット中で磁場配向させると,らせん状のツイストベンドネマチック液晶ドメインが一方向にそろった構造になることが,KEK放射光実験施設のビームラインBL-8Bによる解析により明らかになった。
加えて,これを用いたらせん状のブロック共重合体の合成も行なった。ブロック共重合体は,異なる性質の高分子鎖を一本にしているため,それぞれの高分子の物理的・化学的性質を併せ持つため,粘弾性や強度の調整が可能な他,磁性と導電性などを兼ね備えたものを作成することもできる。この研究では,複数の波長域での円偏光二色性を持つ高分子が得られた。
研究グループは,この反応は,生体内で,キラル構造を持つアミノ酸が酵素により生長して,らせん構造を持つタンパク質を合成することにも比類し,バイオミメティックテクノロジーの一つになると考えられるとしている。