東大,格子定数などを用いず未知の結晶構造を決定

東京大学の研究グループは,多相系材料に適用可能なデータ同化に基づく結晶構造決定法を開発した(ニュースリリース)。

結晶構造決定は,物質の様々な性質の理解,さらには新規材料の開発指針策定のために必要不可欠な営みとなっている。結晶構造を決定する手がかりとして,実験研究者が古くから用いてきたのが粉末回折パターンであり,これを解析して数多くの結晶構造が決定されてきた。

しかし,この実験的なアプローチでは,構造決定の成否が実験データの質に大きく左右されてしまい,とりわけ粉末回折パターンに複数の結晶相からの回折ピークが混在する場合には,目的構造の格子定数の決定が困難になるという問題点があった。

一方,計算機シミュレーションを用いた理論的な結晶構造予測は,実験データを必要としないのが利点だが,結晶構造が複雑になると,現実的なシミュレーション時間内の探索では目的構造を見つけることができないため,探索を加速する方法が研究されている。

このような状況の中,これまで研究グループでは,回折実験データをシミュレーションに利用するデータ同化結晶構造決定法の開発に取り組んできた。データ同化によって,実験データと一致する結晶構造の安定性が強調されるため,効率的に目的の結晶構造を見つけることができるという。

しかし,従来のデータ同化法では,事前に格子定数の情報が必要であり,複数の結晶相を反映した粉末回折データなど,格子定数の決定すら困難な実験データには適用できないという問題点があった。

そこで研究では,数千原子を含む巨大なシミュレーションセルを用いた結晶成長シミュレーションをデータ同化で加速するというアプローチを提案した。この手法を,炭素の多形で有名なグラファイト及びダイヤモンドの回折ピークが混在する粉末X線回折パターンに適用したところ,二つの結晶相が混在する多結晶体が得られ,教師なし機械学習を使ってこれらの分離に成功した。さらに複雑な二酸化ケイ素にも本手法を適用したところ,すべての目的構造を得ることに成功した。

今回の研究で開発したデータ同化結晶構造決定法により,格子定数の事前情報なしに目的の結晶構造の塊が得られることが示された。これによって,複数の結晶相が混在した粉末回折パターンからの構造決定が可能となるため,研究グループは今後,構造決定に至らぬまま眠っていた粉末回折パターンに対してこの手法を適用することで,未知構造決定を促進し,革新的な材料開発の加速に繋がることが期待されるとしている。

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