理研,ジョセフソン接合デバイスの作製に成功

理化学研究所(理研)は,トポロジカル絶縁体である2次元物質を使ったジョセフソン接合デバイスの作製に成功した(ニュースリリース)。

マヨラナ粒子の量子ビットへの応用には,2次元のトポロジカル絶縁体を使ったジョセフソン接合のようなデバイス構造での観測が必要。ジョセフソン接合は二つの超伝導体を直接接触しないまま極めて近接させた構造で,直接接触していないにもかかわらず,トンネル効果により超伝導電流が流れる。

しかし,現在知られている2次元トポロジカル絶縁体は数少なく,その一つである二テルル化タングステン(WTe2)単層膜は空気中で容易に劣化し,また良好な超伝導電極の形成が難しいことから,これまでジョセフソン接合デバイスの作製は困難だった。

研究グループは,グラフェン膜の作製に用いられる手法によってWTe2単層膜を作り,多数の端子を持つジョセフソン接合デバイスを作製した。リソグラフィー,絶縁膜堆積,エッチングの各プロセスにおいて,WTe2の劣化を防ぐために,WTe2を空気に触れさせないようにすることが重要だったという。

また,WTe2とパラジウムを接触させて温度を上げると,PdがWTe2の中に拡散してできたと考えられる超伝導物質(PdTex)が,超伝導電流を流すことのできる良好な超伝導電極として働くことを見いだした。

この物質では,絶縁体を介してゲート電圧をかけると,ゲート直下が超伝導状態になるため,これを利用して,左と右のゲートの間にジョセフソン接合を形成した。

次に,ジョセフソン接合が実際に形成されているかどうかを調べるために,0.6GHzのマイクロ波を照射しながら電流電圧特性を測定した。その結果,電流電圧特性にジョセフソン接合特有の階段構造(シャピロステップ)が観測され,ジョセフソン接合デバイスとしての動作を確認した。

シャピロステップは,ジョセフソン接合に特有のhf/2eを単位としたものであり,電圧標準にも用いられている。もしシャピロステップに奇数次の階段が消滅していれば,マヨラナ粒子の兆候が観測されたことになるが,今回の実験ではそれは確認できなかった。

マヨラナ粒子の観測には,デバイスのパラメータを適切に調節し,マヨラナ粒子が現れる条件を見つける必要がある。今回開発したデバイスプロセスにはまだ十分な再現性と信頼性が得られていないことが,マヨラナ粒子の発見に至らなかった理由だとする。

研究グループは,この成果によって2次元物質からなるデバイス構造を用いたマヨラナ粒子探索の道を開くことができ,将来的にトポロジカル量子ビット実現につながるものとしている。

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