東北大学,京都工芸繊維大学,京都大学,理化学研究所は,金属のらせん構造と磁石で構成されるメタマテリアルを用いて,室温で光(マイクロ波)と磁石が極めて強く結合した状態を実現した(ニュースリリース)。
超伝導量子ビットを用いた量子コンピューターとの情報のやりとりでは,携帯電話で用いられるマイクロ波と呼ばれる,波長が数cm程度の光が用いられる。
具体的にはマイクロ波を磁石での波(マグノン)に結合させることで,量子コンピューターと計算の命令や結果をやり取りすることができるようになる。このようなハイブリッド量子系には,マイクロ波とマグノンが強く結合した状態を作り出すことが重要となっている。
これまでの研究では,金属の箱に磁石を入れ,マイクロ波を当てることで強結合が実現されてきた。これを超える極めて強い結合を実現するためには,低温の超伝導体が共振器として用いられてきた。よって室温で光と磁石が極めて強く結合した超強結合マグノンポラリトンを実現することは,まだまだ挑戦的。
そこで研究グループでは,天然には存在しない性質を示す人工構造物質(メタマテリアル)を用いて,超強結合マグノンポラリトンを室温で実現することに取り組んできた。
研究グループは,メタマテリアルを舞台としてスピントロニクスとマイクロ波光学の知見を融合し,磁石と光の結合状態を調べた。絶縁性の磁石であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)の円柱である磁性メタ原子を,銅のらせん構造のカイラルメタ原子に挿入し,磁気カイラルメタ分子を作製した。
周波数10GHz程度のマイクロ波の透過を測定した結果,カイラルメタ原子に共鳴したマイクロ波と磁性メタ原子のマグノンが結合比0.22で極めて強く結合し,室温で超強結合マグノンポラリトンが実現していることが明らかになった。
この結果は,これまで金属箱や低温を必要としていた超強結合マグノンポラリトンの新しい実現方法として注目される。そして量子コンピューターの室温での操作手法の開発に繋がるもの。
さらにカイラルメタ原子と磁性メタ原子での対称性の破れに起因して,メタ分子の上からマイクロ波を照射した場合と,下から照射した場合で透過係数が異なる方向非相反性が確認された。
このような方向非相反性は,光の伝搬方向に依存して屈折率が変化するという意味で,方向依存複屈折と呼ばれる。これはマイクロ波にとって表裏の決まったマジックミラーの実現に繋がるという。
研究グループは,今後は,更なる強結合状態を目指すとしている。