東北大ら,固体結晶中の電子がガラス化する謎を解明

著者: sugi

東北大学,東邦大学,高輝度光科学研究センター(JASRI),山梨大学,東京大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK),独ゲーテ大学フランクフルトは共同で,固体結晶中の電子がガラス化・結晶化するメカニズムを解明することに初めて成功した(ニュースリリース)。

ガラス状態は物質の三態のどれとも異なる状態で,固体状態と同様に流動性を持たない一方で,液体状態と同様に空間秩序を持たない。一般的に,ガラス状態は液体を急冷して結晶化(固体化)を阻害することで得られる。しかしながら,なぜガラス状態が形成されるのかという物理的メカニズムについては未だ十分な理解が得られておらず,物性物理学最大の未解決問題の一つとなっている。

今回研究グループが対象としたガラス状態は,固体結晶中の電子が引き起こすガラス化現象で,結晶中の電子が無秩序な配置のまま凍結したガラス状態。このガラス状態は電子の結晶化が妨げられた場合に生じ,近年,強い電子相関と幾何学的フラストレーションをもった分子性有機導体においてその実現が報告されてきたが,その形成メカニズムは未解決のままだった。

三角格子を持つ分子性有機導体Θm-(BEDT-TTF)2TlZn(SCN)4は,研究グループが電荷ガラス形成物質として見出した物質で,高温では各分子上に+0.5価の電荷が均一に分布した「電荷液体」状態になるが,170ケルビンの低温で分子間のクーロン斥力により電荷が+0.85価と+0.15価に分離して周期的に整列した「電荷結晶」状態へと転移する。

この転移は1分間に50ケルビン以上の冷却速度で抑制され,電子のガラス状態である「電荷ガラス」が得られる。研究グループは,KEK フォトンファクトリー(PF)とSPring-8においてそれぞれX線構造解析と赤外分光測定を行ない,電子のガラス状態を詳細に調べた。

さらに,急冷過程によって作り出した過冷却電荷液体状態において電気抵抗率測定を行なうことで電子の結晶化過程を詳細に調べ,各温度・時間における電荷結晶領域の体積を求めた。

その結果,電子のガラス化には強い電子相関と三角格子の持つ幾何学的フラストレーションが重要であることを実験的に示し,一般的なガラス形成物質との類似性を明らかにした。この研究成果により,今後ガラス化現象一般に対する統一的な理解がより一層深まるものとしている。

キーワード:

関連記事

  • 【interOpto2025】夏目光学、可視化実験用モデルを展示

    interOpto / 光とレーザーの科学技術フェアで、夏目光学【可視化技術フェア No. B-16】は、可視化実験用モデルを展示している。 展示されていたのは、エンジンのシリンダーなど車載部品をガラスで製造したものだ。 […]

    2025.11.12
  • 【interOpto2025】五鈴精工硝子、透過・拡散ガラス・両面レンズアレイを展示

    interOpto / 光とレーザーの科学技術フェアで、五鈴精工硝子【紫外線フェア No. C-15】は、紫外線殺菌・露光装置に注目される成型可能な紫外線透過ガラス「IHUシリーズ」、高い拡散効果と安定した配光特性を誇る […]

    2025.11.11
  • 東大ら,単一元素金属がガラス化する仕組みを解明

    東京大学と中国松山湖材料実験室の研究グループは,単一元素(金属)がガラス化するメカニズムを大規模シミュレーションにより解明した(ニュースリリース)。 金属ガラスは,結晶性金属にはない高強度や耐食性,優れた加工性などの特性 […]

    2025.09.12
  • 島根大ら,放射光で金属ガラス若返り現象を観測

    島根大学,広島大学,弘前大学,高エネルギー加速器研究機構,東北大学は,金属ガラスに液体窒素温度と室温の間を繰り返して上下させる「極低温若返り効果」を起こすことで電子状態が変化することを,放射光を用いた実験で明らかにした( […]

    2025.09.11
  • 三重大ら,原発瓦礫のセシウムをレーザーでガラス化

    三重大学,海洋研究開発機構,太平洋コンサルタント,帝塚山大学,東電設計は,レーザーを援用したその場固定化により,コンクリート中にセシウム (Cs)を閉じ込めてガラス体を形成することに成功した(ニュースリリース)。 福島第 […]

    2025.04.21
  • 筑波大ら,THz帯を透過するガラス材料設計に知見

    筑波大学,東京科学大学,大阪大学,東京大学,立命館大学,京都大学は,ガラスにあるわずかな原子の周期構造(見えない秩序)が,ガラスの物性に影響を及ぼすテラヘルツ帯の揺らぎ(振動特性)を決定する重要な要因であることを明らかに […]

    2025.04.15
  • 技科大,レーザー造形技術で次世代の電池を開発

    長岡技術科学大学の研究グループは,レーザー誘起局所加熱による溶融凝固によってイオン伝導する界面形成に成功した(ニュースリリース)。 全固体電池は高いエネルギー密度と,極めて高い安全性を実現できる次世代蓄電デバイスとして研 […]

    2025.04.08
  • 阪大,ガラスの「秩序変数」を新しい理論で説明

    大阪大学の研究グループは,ガラスの「秩序変数」を新しい理論で説明し,固体における「秩序」の本性を解明した(ニュースリリース)。 「秩序変数」とは,固体・液体・気体など,物質の「相」を区別するための指標の一つで,これを考察 […]

    2025.03.28
  • オプトキャリア