プラズマ式深紫外光源の進化と応用

3.2 海中生物付着防止装置の開発

海中におけるUV防藻技術の開発を2017年に国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の依頼により開始した。異なる波長を用いた比較実験と光源改良を経て図5に示す275 nmブロード発光のLAFi275面光源を開発した。海水中でのUV照射では,多様な微生物のUV感受性と栄養成分等のUV吸収を考慮する必要がある。波長250 nm以下の短波長側にはミネラル成分の吸収が多数あり,長波長側には320 nmあたりに植物プランクトンの吸収ピークがある5)。このためブロードバンド発光である事が重要となる。

図5 275 nmブロードLAFi275発光スペクトル
図5 275 nmブロードLAFi275発光スペクトル

2020年に海中に沈めて使用できる耐水圧容器入り防藻光源を開発した。8×8 cm2防藻光源装置を図5に示す。光源のほか,防水ケース入りで屋外長期実験に使える間欠点灯制御基板付きバッテリ装置を準備した。JAMSTECに納入したほか,海洋ビジネス関連の企業にも販売している。

図6 耐水圧容器入り面光源と実験用バッテリセット
図6 耐水圧容器入り面光源と実験用バッテリセット

図7にJAMSTECが行った海中での防藻効果実証実験の結果を示す。計測用ケージ内に温度,CO2,pH計測用の各センサをマウントしたセンサユニットを2台搭載し,一方のセンサ部には図6の8×8 cm2防藻光源を配置して30分周期で2分間UV照射を行う。3ヶ月経過した状態では図7(右)のように,UV照射がない場合は藻類・貝類が厚く付着してセンサが機能しなくなるが,UV照射があれば付着物はほとんどない6)

図7 防藻効果実験装置とUVC間欠照射の効果
図7 防藻効果実験装置とUVC間欠照射の効果
3.3 北極域研究船への適用事例

JAMSTECからの依頼により,北極域研究船「みらいII」船内にあるムーンプールの船底ハッチを開閉する油圧シリンダに取り付ける防藻装置を開発した。伸縮するロッド部に藻類や貝類が付着して固化するとスムーズに動作できず油圧シリンダ損傷の恐れもあり,また常に海水中にあるため付着物除去などメンテナンスの難しさもあった。今回直径10 cmのロッド可動部の1 m長に渡り両側からLAFi275(図5)の照射を行う。水深8 mで使用するため耐水圧容器入り11×11 cm2面光源を5台連結して1 m長範囲に対応する設計とした(図8)。

図8 耐水圧防藻光源と水中試験中の5連結防藻装置
図8 耐水圧防藻光源と水中試験中の5連結防藻装置

設計検証のため,図9(左)のように水槽を用いて,栄養分を追加した海水にϕ10 cm金属円筒を沈め,両側から2枚の11×11 cm2面光源により照射距離8 cmから30分周期で2分間UV照射した。窓際の明るい場所に設置しており短期間で微生物が付着して増殖する。半月程度で藻の付着範囲を観察したところ,図9(右)のように円柱上の最大幅30 cmに渡り防藻効果があり,UV照射が届きにくい部分でも十分な効果があることが判った。

図9 海水中での防藻範囲の検証実験
図9 海水中での防藻範囲の検証実験
3.4 Far-UVCの新たな面光源 LAFi228 nm

殺菌に用いられるUVC波長域のうち,240 nm以下の波長域Far-UVCは人体への有害性が低いとされ,当社でも228 nmブロード発光(LAFi228)を開発している。図10はLAFi228とローパスフィルタ(LPF)を組み合わせた例である。徳島大学医学部による検証実験によれば,LPFのカットオフ波長を変えて計測すると,より短い波長でカットする方が不活化性能と低有害性ともに有利だと判った7)。228 nm応用装置を開発するほか,より短波長の蛍光体の検討も行っている。

図10 LAFi228発光波長とローパスフィルタ適用例
図10 LAFi228発光波長とローパスフィルタ適用例