学術と産業の架け橋となり,更なるイノベーション創出を

─改めてレーザー学会の役割と今後の取り組みについてお聞かせください

学会の役割は先ほども述べたように,①学術の振興と新分野・融合分野の開拓,②社会・産業界での実用化の促進,③人材育成の3つがあり,これは変わることはありません。

まず学会として,新分野・融合分野の開拓に力を入れて,タイミング良く技術専門委員会を立ち上げる取り組みは継続して行ないます。ここで重要なことは,技術専門委員会に参加する人材の多様化です。レーザーの専門家だけが集まっていてはダメで,その応用分野,あるいは融合分野の専門家にも一緒に参加してもらう必要があります。また,他学会と連携した専門委員会の設立もあり得ます。

このような取り組みは②と③にもつながっていくと思いますが,気になっているのは,学会における企業の存在感が薄れていることです。企業側の学会参加に対する意義の認識,理解を望むところです。学術講演会への企業からの参加や講演を増加させるような施策を行なうとともに,魅力のあるテーマ設定を考えていく必要があります。特に,国が重点的に取り組んでいる課題に特化したテーマを設定すれば,お互いに連携できると思います。産学連携活動は国や社会への発信も必要であるので,発信する母体として学会を活用することもできるでしょう。

人材育成に関しては,先ほども述べた海外への積極的な留学や体験に加え,博士人材の育成も重要です。私は2022年に国立研究開発法人協議会の会長に就任しましたが,国研は専門分野を深掘りする人材育成に加えて,複数分野に精通した人材や基礎研究,応用研究,実用化研究のいずれにも対応できるマルチ人材の育成が必要と思います。産業界は経営環境の変化に対応して,事業ポートフォリオの入れ替えや新事業構築,事業からの撤退が頻繁に行われます。従って,このような改革に対応して,柔軟に研究開発のターゲットを変更し,かつ高度な技術開発を行なうマルチ人材が必要になるわけです。私は,国研が産業界が求める博士人材を育成することにより,産学官の間で人材流動化が大幅に進むと思います。大学や国研のポストには定員枠があるので,産業界がこれまで以上に積極的に博士人材を受け入れることが人材流動化のポイントになるでしょう。また産業界への人材流動化が活発になれば,博士課程に進学する学生が大幅に増加することも期待されます。学会としても,こうした人材育成とその流動化に貢献することが不可欠だと思っています。◇

(月刊OPTRONICS 2024年1月号)

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