フォトニック結晶レーザーが拓く「高輝度半導体レーザー」の次章

産業化の谷を超え

─京都大学フォトニック結晶レーザー研究所の役割とは

大学と企業の間には「産業化の谷」があります。企業は長期投資の判断が難しく、担当者が面白いと思っても試作、評価の設備投資に踏み切りにくい。そこで法人をつくり、装置やノウハウをビジネスユースで活用できる検証の場を用意しました。企業が自社投資へ進む前段の実証を支え、いわば日本版フラウンホーファー研究所のように橋渡しをしたい。

設立後間もないですが、すでに多くの企業・機関との連携を開始しています。企業の中央研究所が担ってきた試作機能が弱まりつつあるいま、設備と知を“使える形”で開くことが、産業化のスピードを左右すると感じています。

─研究所の将来は

技術はまだまだ進化します。直径10ミリが終われば次は直径30ミリ、さらに宇宙応用などが出てくる。ベンチャーを作る道もありましたが、研究所は技術を均等に広める“奉仕”の場として運営しています。

─フォトニック結晶レーザーの産業化について

最初に、社会実装したのは、2014年です。当時は、サイズが、直径200μmで、出力は、200mW程度でしたが、拡がらずコヒーレントなビームが出射出来ることを、実物として初めて世に示せました。それから、10年程度が経った今、サイズがどんどん大きくなり、パワーは、ワットクラスから、10ワットクラス、さらにその上へと発展しています。

現在、大学や法人を介して、同時並行的に、複数の企業の事業部への技術移転が進んでおり、様々な応用へこれから発展していくものと期待しています。例えば、ロボットの自動走行のためのLiDAR用光源。素子サイズ500µmで、10Wを超えるピークパワーの綺麗なビームが得られ、30m先でも5cm以下の拡がりで、光学系が極めてシンプルになり、また、ゴーストが発生しない非常にコンパクトなLiDAR構築が可能になります。また、変調フォトニック結晶を用いて、絞られた多点ビームを様々な方向に出射し、それらを電気的に切り替えつつ、高感度な2次元高感度(SPAD)アレイと組み合わせた、オールチップ型LiDAR.。これは、距離200m以上、かつ広視野角で計測可能で、車載用LiDARの大幅な低コスト化と小型化に繋がるものと期待出来ます。

オールチップ型LiDAR
オールチップ型LiDAR

加工分野では、現在、CO2レーザーやファイバーレーザーが主役ですが、大きさが巨大で、効率に限界があります。高効率で制御性の良い超小型フォトニック結晶レーザーに置き換えられれば、ものづくり分野におけるゲームチェンジを起こすことができます。通信・データセンター用では1.3~1.5µm帯へすでに展開を開始しています。これにより、例えば、シリコンフォトニクスと組み合わせてデータセンターの光インターコネクトを支えることが期待されます。宇宙では高コヒーレンスで拡がらないビームを生かし、無中継の長距離光通信にも挑戦しています。また、固体結晶と組み合わせて、宇宙LiDARにも挑戦しています。

将来はEUV露光用ドライブ光源、さらにはレーザー核融合のような超高出力領域まで視野に入ります。半導体レーザーが“巨大レーザー”を置き換えるとき、装置の姿そのものが変わるはずです。「10ミリが実現すれば、設計と量産の議論が一段進む。そこから先は30ミリへ向けた挑戦も始まります。

─広く技術を俯瞰されて、先生が特に注目されている分野は

言うまでもないですが、AIの進歩は驚くほどです。実は、ずいぶん前から、フォトニック結晶レーザーのデジタルツインの形成やスマート化にAIの活用を行っていました。また、上述のように、フォトニック結晶レーザー自体が、データセンターを支え、AIの進歩にも寄与することをも期待しています。

京都大学 特別教授 野田進教授

─若手研究者へのメッセージを

いまは変化の時代ですが、焦らず、自分に与えられたミッションをやり抜いてください。若いうちは専門性という「一本の杭」を打つことが大事です。自分の真の興味に従って深く掘り、後に立場が変わったときに社会からのフィードバックで磨けばいいと思います。人が循環し、若手PIが育つ仕組みも必要です。夢を持って、深めていってほしいですね。

─日本の光デバイス産業において、本技術が果たしうる役割をどう見ているか

光技術で日本企業は今でも良い立ち位置にあると思っています。その流れの中でフォトニック結晶レーザーが高輝度光源として実装されれば、センシング、通信、加工など複数の産業を底上げできる。いまはファイバーレーザーで海外勢も強いですが、フォトニック結晶レーザーならより安価に高輝度化でき、日本のものづくりの優位性にも寄与し得ます。宇宙通信でも、この技術で起死回生につないでほしい。光源に特化した話ではありますが、橋渡しの仕組みを各分野に増やし、日本発技術が産業としてテイクオフするモデルを広げたいと思います。

4月20日(月)~24日(金)に開催されるOPIC2026では、野田氏がプレナリーセッションに登壇する。

OPIE2026 プレナリーセッション
・日時:4月22日(水) 16:15~18:45
・会場:パシフィコ横浜 会議センター501 + 502
・参加費:無料

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