─無鉛化を進める理由はどこにあるのでしょうか?
鉛系のペロブスカイト太陽電池よりも性能が低いのが現状ですが,実は低いなりに使える場所はあります。一つには屋内が挙げられます。どういう意味かというと,ペロブスカイト太陽電池というのは,主に可視光線を必要とします。

屋外ですと,赤外線が多いので,シリコン系太陽電池ではその赤外線を全て吸収して電流に変換できるために効率は大きくなります。いっぽう,ペロブスカイト太陽電池は主に可視光線しか吸収しません。しかし,出てくる電圧はシリコン系太陽電池に比べて1.5倍も大きいのです。この特性が屋内で活きてくるということです。しかし,鉛が含有したペロブスカイト太陽電池を屋内で使用すると,鉛と接するリスクが増えるので,無鉛化が重要となるわけです。将来的には用途に応じて鉛系のものと無鉛系のものが,両方出ると思います。
─無鉛化研究の最近のトピックを教えてください
ペロブスカイト構造に限定せず,銀ビスマスヨウ化物などを研究しています。また,最近はハロゲンを含まない硫黄化合物に関する論文を発表しました。この材料は赤外線まで吸収し,電流生成能力があるということが分かりました。エネルギー変換効率は5%程度ですが,非結晶の薄膜シリコンや他の太陽電池材料と比較したとき,この材料によるペロブスカイト太陽電池は塗布型で製造でき,製造コストが低い点がメリットになります。
また,有機薄膜太陽電池も無鉛で,最近の研究で効率が20%近くまで向上しましたが,大面積での効率が低く,産業化が進んでいません。しかし,無鉛ペロブスカイト太陽電池は今後有機薄膜太陽電池と競合する可能性があります。
ペロブスカイト太陽電池の用途は広い
─現在,ペロブスカイト太陽電池の実証実験が活発に行なわれています
積水化学工業さんやリコーさんなどが頑張って取り組まれています。我々の方でもマクニカさん,株式会社麗光さんなどいくつかの企業が参画し,ペロブスカイト太陽電池の実用化を目指すコンソーシアムを設立させました。
このコンソーシアムに参画されているマクニカさんが環境省の『地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業』に公募し,実用化に向けたペロブスカイト太陽電池の実証実験を行なうという3年間のプロジェクトに採択されました。
それが横浜市の協力も得て進められている,横浜港にある大桟橋に設置したペロブスカイト太陽電池の実証実験プロジェクトです。設置したペロブスカイト太陽電池は苛烈な環境に耐えることのできるバリアフィルムを施していますが,ここを選んだ理由は潮風が吹き塩害を受けますから,その耐久性を調べるのには最も適しているからです。
マクニカさんは技術商社ですが,プロジェクトでペロブスカイト太陽電池の製造を担当しているのは私のペクセル・テクノロジーズと麗光です。開発にあたっては,ペロブスカイト太陽電池向けの材料では三菱ケミカルさん,ヨウ素は合同資源(千葉県),封止剤はMORESCO(神戸市)の協力もお願いしています。
実証実験プロジェクトは2026年3月末で終了となり,その後は社会実装に向けて新会社の設立を計画しています。実証実験では,横浜市以外の自治体などとも連携して,進めようとしているプロジェクトもあります。
個人の方でもペロブスカイト太陽電池を使いたいといった問い合わせがあります。例えば,農園を営んでいる方で,鳥獣被害に困っているというので,その対策として監視カメラの設置を考えられていました。ですが,農園では電源がとれませんので,軽くて柔軟性のあるペロブスカイト太陽電池に目を付けたというのです。
シリコン系太陽電池では重くて移動も大変ですからね。その意味で,ペロブスカイト太陽電池はセンサーなどのオプトエレクトロニクス製品との相性が良いと言えるでしょう。また,他には船室の中であるとか,タンカーの甲板への設置があります。やはり,ペロブスカイト太陽電池が軽量であるのが決め手になっているようです。このようにペロブスカイト太陽電池の用途は多く,広範な分野に利用が可能です。



