レーザー加工でµmオーダーの微細な溝をAl合金表面に創製する加工技術

ミニインタビュー

井尻先生に聞く
レーザーが切り拓く新たな表面加工の可能性

─この研究を始めたきっかけを教えてください。

(井尻)この研究は東京電機大学にいた当時行なっていたものです。研究は大学内にある設備を活用し,その中でできる範囲で進めてきました。所属していた研究室にはおおよそ500万円相当のYAGレーザー加工機や,レーザー顕微鏡,電子顕微鏡といった設備しかありませんでした。その限られた設備を活かし,何か新しいものが生まれないかと試行錯誤を重ねる中で,この研究成果が生まれたというのが経緯です。

─この研究の面白さを教えてください。

(井尻)レーザーを金属の表面に照射することで,アルミニウム表面の原子が拡散し,その結果として表面の原子の量が変動するところにあります。アルミニウム合金だけでなく,例えばマグネシウム合金のような軽金属でも,同様の原子拡散現象が見られるのではないかと考えています。

─研究している中で苦労していることはありますか。

(井尻)一番苦労しているのは,研究費です。最近では若手研究者向けに,さまざまな助成金や細かな研究予算が支給される機会が増えています。しかし,それらを集めても,やはり1,000万円以上するような大型機器を購入するのは非常に難しいのが現状です。

─この研究がどのように応用されることを期待していますか。

(井尻)表面加工の分野において,特にフライス加工では加工が難しい場所への活用が考えられます。従来のフライス加工では難易度が高く,レーザー加工の特性を活かすことで新たな可能性が広がると考えています。レーザーによる表面改質技術を駆使することで,これまでの加工法では実現が難しかった高精度かつ複雑な表面構造を可能にし,さまざまな産業分野で役立てたいと考えています。

─若手研究者が置かれている状況をどう見ていますか。

(井尻)その年々で状況は変わりますが,大学の体制や仕組みも影響していると感じています。現状では,私自身だけでなく,他の教員にも学会の仕事が多く割り振られており,そのほかにも学内でのさまざまな業務が重なって,研究に使える時間がかなり限られてしまっているのが実情です。また,大学の先生を目指したいという人自体が少なくなる中,大学教員という仕事の魅力自体が少しずつ下がってきていると感じています。

─さらに若手や学生に向けてメッセージ

(井尻)若手研究者へのメッセージですが,今の時代,研究費が限られていて,思うように研究が進められないことが大きな課題のひとつだと思います。ですが,新しい研究の種を見つけることが大切だと感じています。

そして,学生へのメッセージとしては,最近は海外志向がとても強い傾向にあります。もちろん,英語を話せることはこれからの時代に大切ですが,それ以上に,まずは自分の母国語で基礎を固めることが大切だと思います。その上で,海外に出ていく方が理解も深まり,より良い研究につながるのではないでしょうか。

(聞き手:梅村舞香/杉島孝弘)

イジリ マサタカ
所属:東京都立大学 システムデザイン学部機械システム工学科 助教
略歴:2017年岡山大学大学院自然科学研究科産業創成工学専攻博士課程修了,同年山口東京理科大学工学部機械工学科ポストドクトラル研究員入職,その後,東京電機大学工学部先端機械工学科助教を経て,2021年東京都立大学システムデザイン学部機械システム工学科助教に従事。その期間内で第66回日本金属学会論文賞 組織部門に受賞,日本機械学会中国四国支部賞技術創造賞に受賞。現在はレーザやキャビテーション気泡を用いた表面改質,機械的特性及び熱伝導率に優れた複合材料作製,加熱による自然変形を発生させるβ型Ti合金に関する研究に従事。
趣味:犬と散歩に行くこと。新しい知見を得るため旅行に行くのが好き(研究室でも旅行に行くことがある)。

(月刊OPTRONICS 2025年8月号)

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