化学気相成長による軽元素系無機蛍光体の薄膜プロセス

1. はじめに

蛍光材料は,蛍光灯やLEDなどの照明機器をはじめ,センサーやイメージング,ディスプレイや塗料など日常生活には不可欠な材料である。多くの無機蛍光体ではホスト構造に希土類元素を添加し,4f-4f遷移を利用した鋭く狭い発光帯を賦活したものが産業利用されている。

しかしながら,希土類元素フリーな蛍光材料の研究開発は希少金属の代替や使用料低減の観点から重要な課題とされてきた。また,白色LEDや蛍光灯に用いられる蛍光材料は主にミクロンサイズの粉末であり,樹脂に埋入してチップ化されて利用される。

一方,光学デバイス・素子やセンサーなどの次世代材料における各種機能・特性の向上を目指した研究開発では,ナノサイズ化や薄膜化による形状・形態を精緻に制御可能な製造プロセスの需要が今後益々高まると予想される。

化学気相成長(CVD)は,分子・原子レベルのガスを原料とし,段差被覆性や密着性に優れ,プロセスパラメータを調整することで多様な形態・構造の膜やコーティング層,ナノ粒子を製造できる1)。半導体デバイスをはじめ,絶縁被覆,切削工具のチップやエンドミル等のコーティング,カーボンナノチ ューブの合成など,CVDは産業や研究現場で広く用いられてきた。

また,レーザーやプラズマなどの外場エネルギーを援用すれば高速成膜や構造制御性の向上,プロセスの低温化を期待できる2, 3)。筆者らは,CVDや高強度レーザーを用いてセラミックスを中心とした材料・プロセス開発を進めており,本稿ではホウ素,窒素,炭素および酸素の軽元素のみで構成される希土類元素フリーな蛍光体の薄膜プロセス開発について紹介する。

2. 六方晶窒化ホウ素とBCNO蛍光体

窒化ホウ素(BN)は,結晶学的および熱力学的に炭素材料と多くの共通点をもつ。熱力学的平衡では高温高圧で安定な立方晶BN(c-BN)とダイヤモンド,室温常圧で安定な六方晶BN(h-BN)とグラファイトは,それぞれ類似の結晶構造をもつ。

炭素材料ではグラファイトの六員環構造を骨格とするカーボンナノチューブや量子ドットなどのナノ材料のプロセス開発が盛んに進められ,電気的および機械的特性はもちろんのこと,発光現象や光学特性に関する研究も数多く報告されてきた。このようなナノ材料開発はh-BNにも展開されている。エンジニアリングセラミックス分野でも,h-BNは高温で化学的安定性に優れるため耐熱・絶縁部材や潤滑剤,るつぼなど,粉末やバルク材(焼結体)は従来から広く用いられてきた。また,SiC繊維強化複合材では繊維/マトリックスの界面層としてCVDによりh-BNや炭素のコーティングが施される。

Watanabe とTaniguchiらは高品位のh-BN結晶を高温高圧下で作製し,カソードルミネッセンス測定により室温で215 nmの強い自由励起子発光を示すこと明らかにした4)。これにより,深紫外発光材料としてその光学特性も注目された。彼らはCVDにより深紫外発光性を示すh-BN薄膜の合成にも成功した5, 6)

また,h-BN結晶のバンドギャップや光学特性は炭素や酸素の不純物に影響されることが知られる。h-BNに炭素を加えた炭窒化ホウ素(BCN)は,h-BNとグラファイトの固溶体と考えることができ,1970年代初めにはホウ素と炭素を高温で窒化することでBCN材料が合成された。それ以降,CVDや物理蒸着法(スパッタやパルスレーザー堆積法)などの気相法により電気的および機械的特性に焦点を置いた研究が精力的に進められてきた7~11)

BCNに酸素を加えたBCNOは,2008年に広島大の荻と奥山らによって室温,紫外線照射下で可視光を発することが報告された12, 13)。ほう酸と尿素,ポリマーを混合した原料溶液を900℃以下で加熱して合成でき,安価で簡易な液相プロセスによりBCNO蛍光体粉末が作製された。

また,原料組成の調整により青から赤色に近い波長域で発光色を制御でき,量子効率は60-80%(蛍光波長中心:450-550 nm)に達する。さらに,燐光や温度消光などの発光特性の詳細な調査や,白色LEDへの応用など基礎・応用の両面から研究開発が進められている14~17)

ミクロンサイズのBCNO粉末は固相反応法やマイクロ波加熱法,液相法により作製できるが18),触媒や医療・センサー分野への応用を目指してナノシートやナノファイバー,ナノチューブなどの低次元材料も合成されてきた19, 20)。数は少ないが,気相法によるBCNO薄膜の合成に関する報告もある。

例えば,OngらはPVD(Dual ion beam deposition 法)によるB-C-N-Oの成膜21),Ozturk らはCVDによるBCNO二次元材料の合成に関して報告した22)。これらBCNO薄膜では,透光性や電気的および機械的特性は調べられてきたが,著者らの知る限りでは可視域で蛍光を示すBNCO薄膜の合成例は見当たらない。

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