ジョーンズベクトルで記述できる全ての偏光・位相を生成する液晶空間光変調器

6.2 PMCを利用した加工
図13 PMCを用いたレーザー加工結果
図13 PMCを用いたレーザー加工結果

最後に,加工への応用事例を示す。金属表面にレーザー除去加工を施す時,ラジアル偏光が浅い穴に対して,アジマス偏光が深い穴に対して有効である事が知られている5)。そこで,実際にPMCを実装して加工を行なった結果,図13(a)に示すとおり,溝加工ではラジアル偏光が,図13(b)に示すとおり,深穴加工においてはアジマス偏光が有利となった。この結果自体は既知の事実であるが,PMCが高強度光に対しても有効で,共振器の改造によって得られた加工結果と同様のことが,より手軽に実現できることが示された。

7. 結言

本液晶デバイスによって,楕円偏光を含めた自由度の高い偏光制御ができる。そして,液晶デバイスの製作を自ら行うことにより,少量ながらも外部提供向けの評価デバイスの製作にも対応可能である。用途に応じた設計変更にも対応できるため,今後は自身の研究に用いる一方で,外部への装置提供も行なっていく。それと並行して我々は焦点設計技術の開発を進め,ユーザーが任意の媒質中で所望の焦点形状を得るために,どのようなビームパターンが必要かを簡便に計算する焦点設計ソフトの開発を行う。これにより,従来限られた研究者しかできない職人芸であった焦点の設計技術をユーザー研究者の手に委ねることができ,その結果,焦点制御技術の普及と応用分野の拡大を促し,それとともに,本稿で紹介したPMCの価値を最大化できる状況が生まれるのではないかと考えている。

参考動画

SHG顕微鏡の光学断層観察を用いると,試料の内部の分子配向も観察できる。動画は,PMCが装着されたSHG顕微鏡によって得られた3次元光学断層像である。試料は観測面内に対して分子配向が垂直になるようにスライスされたヒトアキレス腱試料である.本結果では,試料表面においては試料切断の影響による水平,垂直方向の配向成分が強く現れている一方,試料深部においては観測面外配向がより強く観察され,切断による分子配向への影響が少ないことがわかった。

謝辞

本液晶デバイスの開発は,大阪大学において,現北海道大学橋本守教授のご指導の下行なった研究をもとに,ケニックス株式会社,パナソニックデバイスSUNXの研究グループとの共同研究,そして,JST(科学技術振興機構)研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP),天田財団一般研究開発助成,JKA機械工業振興補助事業,公益財団法人ひょうご科学技術協会技術高度化研究開発支援助成など,多くの人々,研究助成のサポート上にようやく成立しました。成果が出るまでに少々時間がかかってしまったことをお詫び申し上げると共に,深く感謝の意を述べさせていただきます。最後に,本稿で紹介した一連の液晶開発と,その応用分野の開拓のプロセスは平成22年度光都ビジネスコンペ最優秀賞最優秀賞を頂いた提案の一部となります。ご評価頂いた提案を現実のものにすべく今後も計画を進めて参りたいと思います。こちらに関しましても篤く御礼申し上げます。

参考文献
1)T. G. Brown, “Progress in Optics” 56, Chap.3 81 (2011).
2)C. J. R. Sheppard, and A. Choudhury. Appl. Opt., 43, 4322-4327 (2004).
3)K. Yoshiki, M. Hashimoto and T. Araki, Jpn. J. Appl. Phys., 44, 1066-1068 (2005).
4)Y. Kozawa and S. Sato, Opt. Lett. 31, 820-822 (2006).
5)B. Tan and K. Venkatakrishnan., J. Micromech. Microeng., 16, 2603-2607 (2006).
6)G. Milione et al., Opt. Lett. 40, 1980-1983 (2015).
7)S. Sato, Y. Harada, and Y.Waseda, Opt. Lett., 19, 1807-1807 (1994).
8)W. D. Kimura et al., Phys. Rev. Lett., 74, 546-549 (1995).
9)K. Yoshiki, R. Kanamaru, M. Hashimoto and T. Araki, Opt. Lett., 32, 1-3 (2007).
10)M. Hashimoto, K. Ashida, K. Yoshiki, and T. Araki , Opt. Lett., 34,1423-1425 (2009).
11)吉木啓介,阿井川智正,橋本守,栗原誠,橋本信幸,荒木勉,生体医工学, 46, 698-702 (2009).
12)M. Hashimoto, H. Niioka, K. Ashida, K. Yoshiki, T. Araki, Appl. Phys. Express, 8, 112401 (2015).
13)M. Hashimoto, K. Yoshiki, M. Kurihara, N. Hashimoto, T. Araki, Opt. Rev., 22, 875-881, (2015).

14)吉木 啓介,橋本 守,特願2016-230675 (2016).

■Liquid crystal spatial light modulator optical devices to generate distribution of phase and polarization described by Jones’ vector
■Keisuke Yoshiki

■University of Hyogo, the School of Engineering and the Graduate School of Engineering

ヨシキ ケイスケ

所属:兵庫県立大学 大学院工学研究科 助教

(月刊OPTRONICS 2017年5月号)

このコーナーの研究は技術移転を目指すものが中心で,実用化に向けた共同研究パートナーを求めています。掲載した研究に興味があり,執筆者とコンタクトを希望される方は編集部までご連絡ください。
また,このコーナーへの掲載を希望する研究をお持ちの若手研究者注)も随時募集しております。こちらもご連絡をお待ちしております。
月刊OPTRONICS編集部メールアドレス:editor@optronics.co.jp
注)若手研究者とは概ね40歳くらいまでを想定していますが,まずはお問い合わせください。

関連記事

  • 超小型衛星搭載に向けたハイパースペクトルカメラの小型化と軌道上観測

    ミニインタビュー 青柳先生に聞く 宇宙実証の感動と現場の苦労 ─研究を始めたきっかけから 大学2年生の頃から超小型衛星の開発に関わっていたことにあります。もともと宇宙が好きで,大学院博士課程へ進み,人工衛星による地球観測…

    2026.05.13
  • 新規赤外受光材料の開発に向けたMg3Sb2薄膜のエピタキシャル成長

    ミニインタビュー 坂根先生に聞く 視点を変えて見えた赤外受光材料の可能性 ─研究を始めたきっかけから もともとは熱電材料の研究を行っていました。熱を電気に変換する材料で,特にMg3Sb2やそれにビスマスを添加した材料は注…

    2026.05.13
  • 地球と人工知能を繋ぐ光ファイバーセンサー

    ミニインタビュー 林先生に聞く 光ファイバー×生成AIで“地球の声”を可視化 ─研究を始めたきっかけから (林)大学院時代から光ファイバーセンサーの研究に携わってきましたが,その中で「この技術を,もっと多くの人に身近に感…

    2026.02.26
  • 安定な有機光触媒を利用した光触媒反応の開発

    ミニインタビュー 田中先生に聞く 高還元力光触媒という新しい挑戦 ─研究を始めたきっかけから (田中)私は博士課程の頃から光触媒の研究に取り組み,主に酸化力の高い触媒の開発を進めてきました。3年前に岡山大学に着任したこと…

    2026.02.12
  • フォトサーマルナノポアによる単一分子レベルでのラベルフリータンパク質構造ダイナミクス解析技術

    ミニインタビュー 山崎先生に聞く レーザー加熱ナノポア計測の挑戦と未来 ─先生のご研究について紹介いただけますか。 (山崎)私たちは,ナノスケールの小さな孔(ナノポア)を利用した先進的な計測技術の開発に取り組んでいます。…

    2026.01.13

新着ニュース

人気記事

編集部おすすめ

  • オプトキャリア