東京大学、埼玉大学、神戸大学、分子科学研究所、日本電子などの国際共同研究グループは、多孔性金属錯体(MOF)の内部に生成した電子スピンを、光検出磁気共鳴(ODMR)法によって検出することに初めて成功した(ニュースリリース)。今回の成果は、光を利用した高感度な量子センシング技術の開発につながると期待される。

量子センシングは、電子スピンなどの量子状態が周囲の環境によって変化する性質を利用し、磁場や化学物質などを高感度に検出する技術として注目されている。その実現には、電子スピンの状態を正確に読み出す技術が重要となる。
ODMR法は、電子スピンにマイクロ波を照射した際の状態変化を、発光や光吸収の強度変化として検出する手法である。光を利用することで、高い検出感度と空間分解能が期待できる。
一方、MOFは金属イオンと有機分子から構成される結晶性の多孔質材料で、内部にさまざまな分子を取り込める特徴がある。分子構造や細孔の大きさを設計できることから、特定の化学物質を検出する量子センサーの材料として期待されてきた。しかし、MOF内部の電子スピンを光で読み出すことは、これまで実現していなかった。
研究グループは、光を吸収するポルフィリン誘導体を有機配位子として組み込んだMOFを合成した。この材料に光を照射すると、分子内に励起三重項と呼ばれる電子スピン状態が生成される。
研究では、この電子スピンの特性を電子スピン共鳴測定などによって調べたうえで、ODMR法を適用した。その結果、マイクロ波の照射によって変化する電子スピンの状態を、発光強度の変化として検出することに成功した。
具体的には、50Kにおいて数μs程度のスピンコヒーレンス時間を確認するとともに、77Kにおいて近赤外光を利用したODMR信号を観測した。これにより、MOF内部に存在する電子スピンを光学的に読み出せることが実証された。
今回の成果は、MOFの構造設計の自由度とODMR法による光学的なスピン検出を組み合わせられることを示した点に意義がある。MOFの細孔内に取り込まれた分子と電子スピンとの相互作用を光で読み出すことができれば、特定の化学物質を高感度に識別する新たな量子センサーの実現につながる可能性がある。
今後は、検出対象となる分子に応じたMOFの設計や、測定温度の高温化、検出感度の向上などが課題となる。研究グループは、MOFと光検出技術を融合させた化学物質の量子センシングへの応用を目指す。





