青山学院大学、北里大学、高輝度光科学研究センター、九州大学の共同研究グループは、配位子の励起三重項準位を分子設計によって精密に調整することで、キラル希土類錯体が示す摩擦発光を選択的に制御できることを実証した(ニュースリリース)。

トリボルミネッセンス(TL、摩擦発光)は、物質に摩擦や衝撃などの機械的な力を加えた際に光を放つ現象。電気を使わずに発光することから、省電力な発光材料や、力が加わったことを光で知らせるセンサーなどへの応用が期待されている。一方、機械的なエネルギーがどのように光へ変換されるのか、その詳細な仕組みは十分に解明されていなかった。
希土類イオンを含む錯体の摩擦発光については、大気中の窒素の放電、希土類イオンの直接励起、有機配位子から希土類イオンへのエネルギー移動など、複数の発光経路が提案されてきた。これらを実験的に切り分け、材料設計に利用できる指針を確立することが課題となっていた。
研究グループは、希土類イオンとアミノ酸由来のキラルな配位子を組み合わせた新しい錯体「LnL^valphen」を合成した。従来のビピリジン骨格を、より大きなπ電子系を持つフェナントロリン骨格に置き換えることで、配位子の励起三重項準位を約22,200cm⁻¹から約19,200cm⁻¹へ低下させた。
このエネルギー設計により、配位子からユウロピウム(Eu³⁺)イオンにはエネルギーを受け渡せる一方、テルビウム(Tb³⁺)イオンには受け渡せない状態を作り出した。実際、ユウロピウム錯体では赤色発光を確認したのに対し、テルビウム錯体では発光が観測されなかった。これにより、配位子のエネルギー準位を調整することで、希土類錯体の発光を選択的に制御できることを示した。

さらに、単結晶X線構造解析から、ユウロピウム錯体が中心対称性を持たず、分子が層状に積み重なった結晶構造を形成することを確認した。この結晶に、研究グループが開発したドロップタワーシステム(DTS)で衝撃を加えたところ、層間で選択的に破砕し、鮮やかな赤色の摩擦発光が観測された。一方、対称心を持つラセミ体では、同じ条件でも発光しなかった。 また、窒素やアルゴンで満たした環境でも発光スペクトルに変化がなかったことから、大気中の窒素放電が発光の原因ではないことを確認した。研究グループは、機械的な力によって結晶が破砕すると、まず配位子の励起三重項状態が生成され、そのエネルギーがアンテナ効果果によってEu³⁺イオンへ移動することで赤色の摩擦発光が生じるとした。これにより、光による発光と摩擦発光が、配位子の三重項準位を介した共通のエネルギー移動機構で生じることを明らかにした。

今回示した設計指針は、他の希土類イオンや配位子骨格にも展開でき、多彩な発光色を持つ摩擦発光材料の設計につながると期待される。将来的には、電源を必要としない衝撃センサー、破損を可視化するコーティング、踏むと光る床材やタイルなどへの応用が想定されている。研究グループは今後、結晶破砕に伴う電荷分離の定量評価や、複数の希土類イオンを組み合わせた多色摩擦発光材料の開発を進める。




