京都大学の研究グループは、多重共鳴(MR)と呼ばれる分子設計を発展させ、半値幅5nmに迫る極めて狭い発光を示す有機発光材料の開発に成功したと発表した(ニュースリリース)。次世代有機LED(OLED)ディスプレイの高色純度化に加え,LEDの応用範囲を拡大する新たな光源技術につながる成果だという。

OLEDなどに用いられる一般的な有機発光材料は、発光スペクトルの半値幅が40nm以上となることが多い。発光スペクトルが広いと複数の色が混ざった光となり、ディスプレイの色純度や色域を制限する要因になる。このため、高精細・広色域の次世代ディスプレイに向けて、より狭い発光帯域をもつ有機材料の開発が求められていた。
同グループは、窒素とホウ素を含む有機分子で発現する多重共鳴効果に着目した。多重共鳴材料では、発光に関わる電子状態と分子振動の相互作用を抑えることで、発光スペクトルの広がりを低減できる。今回の研究では、多重共鳴効果を示す基本ユニットを適切な位置で複数連結し、励起子を分子全体に広く非局在化させる「Modular repetition architecture」という分子設計を提案した。
開発した分子は「m-CzB10-Mes」。10個のホウ素原子を有する含BNヘテロナノカーボン分子で、同グループが独自に開発してきたワンショットホウ素化法により、目的位置へのホウ素導入を99%以上の高収率で実現した。
この分子は低極性溶媒中で半値幅5.5nm、トルエン中で6.9nmの発光を示した。代表的な多重共鳴分子であるDABNA-1のトルエン中での半値幅22nmと比べても大幅に狭く、レーザー色素を強励起した際に得られる自然放射増幅光(ASE)に匹敵する鋭い発光スペクトルを実現した。
また、同分子は狭帯域発光に加え、高い発光量子収率と高速な熱活性化遅延蛍光(TADF)特性も示した。遅延蛍光寿命は1µs以下で、従来はトレードオフとされてきた狭帯域発光と高効率TADF特性の両立に成功した。
さらにOLED素子においても、従来の有機発光材料を大きく上回る約10nmの狭帯域発光を達成した。溶液中に比べると固体薄膜や素子中では分子間相互作用の影響でスペクトルがやや広がるため、今後は固体状態での分子配列や分子間相互作用の制御が重要な課題になるという。
研究グループは、今回の成果について、自然放出光は本質的に広い発光スペクトルを示すという従来の常識を転換するものだとしている。今後、分子設計やデバイス設計をさらに進めることで、レーザーとは異なる自然放出に基づきながら、レーザーに近い単色性を備えた高色純度LEDの実現が期待されている。



