宇都宮大など、量子コンピューターを用いて高精度原子核構造計算を実現

宇都宮大学、東京大学、理研仁科加速器科学センターは、理研に設置されているQuantinuum社製イオントラップ型量子コンピューター「黎明」を用いて、酸素・カルシウム・ニッケル同位体の高精度な基底状態推定を実現した(ニュースリリース)。

原子核の構造と反応の理解は、物質の起源や宇宙の進化を解明する上で不可欠。その一方で、量子多体系のシミュレーションは、粒子や自由度の数が増えるにつれて計算量が爆発的に増大し、古典計算機では扱いきれない問題を数多く抱えている。とくに、核子間に働く核力が複雑で強い相互作用であることから、原子核物理学における多体系問題は計算困難な課題として知られている。近年、量子コンピューターが量子多体系のシミュレーションに対する有望なアプローチとして注目を集めており、物性物理や量子化学が対象とするスピン系や電子系に対する量子シミュレーションの研究は盛んに報告されている一方で、原子核物理学への応用例は限定的となっていた。

この研究では、イオントラップ方式の量子コンピューター「黎明」を用いて、酸素・カルシウム・ニッケル同位体の高精度な基底状態推定を実現した。イオントラップ方式の高いゲート精度に加え、系の特性を考慮した量子回路の設計と誤り低減法を組み合わせることで、上記の幅広い同位体にわたり基底状態エネルギーにして0.1%オーダーでの高精度な基底状態エネルギー推定を達成している。

(図)ansatz(a)とイオントラップ型量子コンピューター(b)の概略図

研究では、全結合型の量子ビットに対する演算を可能とするイオントラップ型量子コンピューターを用いているが、ハミルトニアンの各項の期待値をエラー低減しつつ効率的に測定するために、最近接結合型の量子ビットに対する演算を基本とする(a)のansatz(状態作成回路)を用いて実機での測定を行なっている。

(図)「黎明」を用いて得られた、酸素同位体の基底状態エネルギー推定の結果縦軸は、ノイズのない理想的な結果に対する誤差を表している。
緑色が追加で必要な量子回路の数が最小となるものの、1体項のみにエラー低減が適用可能な方法、赤色が余剰で必要な量子計算機のリソースは多くなるものの、1体項だけでなく2体項についてもエラー低減が可能な方法。

今回対象としたハミルトニアンは1体項・2体項からなり、エネルギーを推定するためには、それらの各項の期待値を複数の量子回路を用意して測定する必要がある。今回は、異なる2つの方法を採用して「黎明」で測定を行なった。一つは、追加で必要な量子回路の数が最小となるものの、1体項のみにエラー低減が適用可能な方法で、もう一方が、余剰で必要な量子計算機のリソースは多くなるものの、1体項だけでなく2体項についてもエラー低減が可能な方法となっている。後者の結果に注目すると、いずれの同位体においても、0.1%程度の高精度な計算を達成した。現状のNISQと呼ばれる量子コンピューターを用いて、これだけの高精度で核子系の量子計算を達成した例は初めてだという。

この成果は、量子コンピューターが原子核の理論計算における新たな計算基盤となり得ることを示す重要な一歩であり、量子計算と基礎物理学の融合を加速させるものだとしている。

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