東北大ら、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱による磁区識別法を開発

著者: オプトロニクス 編集部

東北大学、早稲田大学、大阪公立大学は、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)による新たな磁区識別法を開発した(ニュースリリース)。

交替磁性体は全体としての磁化がゼロでありながら、スピンの分極した電子バンドを持つため、スピントロニクス材料として注目されている。交替磁性体の代表例であるMnTeにおいては従来技術では識別が難しい結晶構造の対称性に由来する磁区の存在が詳細な電子状態解明の障害となっていた。

研究グループは、MnTe単結晶を対象に、RIXS実験を実施した。RIXSは、X線が物質中の格子やスピンの集団振動にエネルギーを与えて散乱される過程を観測することで、振動モードのエネルギーと運動量の関係を明らかにできる手法。今回は特に、右回り・左回り円偏光のX線を用いてRIXSスペクトルを測定し、それらの散乱強度の差である円二色性(RIXS-CD)を測定した。

この手法の革新性は、マグノン励起におけるRIXS-CDが、磁気秩序が引き起こす鏡映対称性の破れに敏感であるという点にある。今回の測定では、X線の入射・散乱角度を精密に制御しながら、試料の方位角を変化させてRIXS-CDの角度依存性を調べた。

その結果、入射角度に応じてRIXS-CDの強度が変化し、最大強度となる方向が存在することが明らかとなった。これは、特定の交替磁区が優勢に存在していることを示唆するもの。

この観測結果を、第一原理電子状態計算と物質中の電子のふるまいを原子レベルで精密に再現する動的平均場理論(DMFT)に基づく理論シミュレーションと比較したところ、実験と理論が定量的に一致し、測定領域では結晶の回転対称性で結ばれる3つの領域のうち1つが約半分を占めていることが判明した。さらに、他の2つの領域もそれぞれ22%、31%存在することが推定された。つまり、RIXS-CDの方位角依存性から、磁区の構成比を定量的に抽出することに成功した。

また、今回観測されたRIXS-CDは、時間反転対称性の破れそのものではなく、磁気秩序による鏡映対称性の破れに由来するものであることも理論的に明らかにした。これは、広く用いられているXMCDが時間反転対称性の破れを検出しているのとは異なりる。

これはRIXS過程の非エルミート性に起因する性質であり、RIXS独自の新しい対称性検出手段であると位置付けられる。

研究グループは、今回開発した手法は、スピントロニクス材料の物性解明に寄与することが期待されるとしている。

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