量子科学技術研究開発機構(QST),大阪大学,神戸大学は,国内最大の極短パルス・超高強度レーザーである,QST関西研のJ-KAREN-Pを活用することで,レーザーを用いた炭素イオン加速として1ギガ(G=109)電子ボルトの大台に到達した(ニュースリリース)。
1980年半ばに発明されたチャープパルス増幅法により極短パルス高強度レーザーが登場した。こうしたレーザーパルスを集光することで,人類がこれまでに経験したことのない超高温・超高圧の状態のプラズマを発生させることが可能となった。
レーザーを用いてイオンを加速する技術のうち,ターゲットとして薄膜を用いる加速では,レーザーエネルギーの増大とともに,レーザー照射されるターゲットを薄くすることで,イオンがより高いエネルギーに加速されることが理論的に示されている。
そのためには,レーザーの高強度化とともに,レーザー条件に最適化されたナノメートル精度のターゲット厚み・組成の制御が要求されるが,これらを同時に満たすことは困難だった。
研究グループは,超高強度レーザーJ-KAREN-Pのレーザーパルス伝送部に像転送システムを開発・導入し,レーザー装置出口でのレーザー強度分布を劣化させずにターゲット手前の集光ミラーに伝送することに成功し,集光条件の大幅な改善とともに,伝送可能なレーザーパルスエネルギーを従来比150 %に引き上げた高強度レーザー照射を実現した。
ターゲット開発では,台湾国立中央大学の協力を得て,大面積かつ原子1個分の厚みのシート状物質グラフェンを複数枚重ねて表面を金蒸着する技術を確立し,ナノメートル精度で厚み・組成を自在に制御することにはじめて成功した。
原子番号が大きく電子を多く含む金は,プラズマ中の電子密度を増し,レーザープラズマ加速の電場強度を大きくする効果をもたらし,高エネルギーのイオン加速を可能とした。今回,レーザー高強度化とターゲット製作技術向上の相乗効果により,極短パルスレーザーを用いたイオン加速としては世界最高エネルギーとなる1ギガ電子ボルトの炭素イオン加速に成功した。
研究グループは,この成果は,炭素イオンを用いる重粒子線がん治療に必要なエネルギーに向けた大きな進歩として重粒子線がん治療装置の大幅な小型化につながるだけでなく,得られた高エネルギー炭素イオンを含むプラズマは,直接観測が難しい宇宙におけるプラズマ状態などを実験的に再現できる可能性があるとしている。




