東北大ら,有機結晶の磁気的性質と起源を光で解明

著者: 梅村 舞香

東北大学,高輝度光科学研究センター,関西学院大学,東北大学は,新種の磁石の候補とされる有機結晶に,新たに求めた光に関する一般公式を適用し,その磁気的性質と起源を解明した(ニュースリリース)。

磁石に光を当てると,どんな磁石でも光は反射する。そして,反射光から磁石の性質を知ることができる。しかしどんな磁石からの反射光でもその性質を知ることができるかというと,これまではそうではなかった。

研究グループは,有機分子でできた交替磁性体の候補κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clの交替磁性的な不思議な機能を磁気光学カー効果という現象を観測して明らかにしようと考えた。第1の磁性体である強磁性体に光をあて,その反射光を調べると,光電場の振動方向(偏光)が回転していることが分かった。

第2の反強磁性体ではこの現象は起こらない一方で,第3の交替磁性体は第1の強磁性体と性質が似ており同現象が起こると理論的には指摘されているが,実験的に正確に検証することは困難。例えば,直方体の結晶構造を持つ物質で磁気光学カー効果を測定すると,傾いた楕円であることまでは分かる。

ところが,その結果から磁性の情報をより明確に引き出すための物性量(非対角光学伝導度)を計算する方法は確立していなかった。立方体のように90度回転しても同じ構造である物質の場合は問題はない。

この場合の楕円の傾きと膨らみ具合の測定値から非対角光学伝導度を求める限定的な公式はこれまでも広く知られている。しかし,今回取り扱った有機結晶の構造は直方体であるため,この限定的な公式を用いることができない。

そこで研究グループは,電磁気学で最も重要な基礎方程式であるマクスウェル方程式から,直方体だけでなく平行四辺形のように歪んだ結晶にも適用可能な一般公式を導出した。これにより,ようやく目的物質の磁気光学カー効果が測定でき,その非対角光学伝導度をスペクトルとして正しく求めることに成功した。

得られた非対角光学伝導度スペクトルには3つの特徴があることが分かった。1つはスペクトルの端に磁極状態の差を示すピークがあること。別の2つの特徴はスペクトルの中間部にある。実部は楕円の傾きに対応しており,一般的には偏光の回転や結晶の歪みを表す。

今回の結果では交替磁性に関わる結晶の歪みを検出した。一方,虚部は楕円の膨らみに対応しており,反射光の傾きが時間的に遅れることを表す。これは光によって物質内に生じた電流が回転する効果とみなすことができる。

研究グループは,従来極めて複雑だったあらゆる物質における光学特性を計測する新しい手法の開拓にも繋がる成果だとしている。

キーワード:

関連記事

  • 名工大、高速度偏光カメラを用いた全視野伸長計測技術を開発

    名古屋工業大学の研究グループは、液滴の落下によって一軸伸長流れをつくり出し、高速度偏光カメラを用いた「全視野伸長レオ・オプティクス計測技術」を開発した(ニュースリリース)。 液体の中には、流れると形を変える複雑流体と呼ば…

    2025.11.17
  • 名工大,固体と液体の応力を光計測する手法を開発

    名古屋工業大学の研究グループは,高速度偏光カメラで取得した複屈折データを用い,固体と液体の応力相互作用を光で計測する新手法を開発した(ニュースリリース)。 脳血管疾患は日本の死因第4位を占める深刻な病気であり,その発症メ…

    2025.09.22
  • 東大,光の偏光面が回転する電場誘起旋光性を巨大化

    東京大学の研究グループは,電場印加に比例して光の旋光性が誘起,制御される現象「電場誘起旋光性(linear electrogyration)」を巨大化することに成功した(ニュースリリース)。 電場の印加によって試料を透過…

    2025.05.16
  • 早大,AIで光駆動有機結晶の発生力を3.7倍向上

    早稲田大学の研究グループは,機械学習を使って光駆動有機結晶の発生力を向上させることに成功した(ニュースリリース)。 光駆動有機結晶の発生力を制御することは,実用化に向けて重要。発生力は結晶の物性,サイズ,光強度といった複…

    2025.04.04
  • 高知工科大,デンケン未来光技術研究センター開設

    高知工科大,デンケン未来光技術研究センター開設

    高知工科大学は,総合研究所にデンケン未来光技術研究センターを開設し,この1 月15 日に開所式を行なった(ニュースリリース)。 このセンターはデンケンが100%出資しているもので,同社は高知工科大学が保有する光センシング…

    2025.03.10
  • 横国大ら,こすると円偏光波長が変わる有機結晶開発

    横浜国立大学,近畿大学,東京科学大学は,こする刺激を加えると,らせん状の発光である円偏光発光(CPL)の波長が長波長化するキラル有機結晶材料を開発した(ニュースリリース)。 CPLは,3Dディスプレーの光源や,偽造を防止…

    2025.01.23
  • 東北大ら,VCSELのスピン制御で偏光スイッチ実現

    東北大学,産業技術総合研究所,大分大学は,面発光レーザー(VCSEL)内部の電子スピンの歳差運動周波数を制御することで偏光双安定性の出現条件が制御でき,これを利用した新しい偏光スイッチング動作が可能であることを実証した(…

    2025.01.20
  • 岡山大ら,宇宙創成の検証に偏光測定誤差を最小化

    岡山大学とイタリア国際高等研究学校(SISSA)は,宇宙創成の謎を探る衛星観測手段において,測定誤差を最小化する手法を発見した(ニュースリリース)。 宇宙の熱いビックバンの残光と呼ばれる宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の…

    2025.01.07

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア