静岡大学と理化学研究所は,T. striata NIES-1019から光合成色素タンパク質複合体を単離し,色素分析,蛍光・吸収スペクトル測定,および分子系統解析を行なった(ニュースリリース)。
酸素発生型光合成は,光合成生物が水と二酸化炭素を利用して有機物と酸素を合成する過程であり,地球上の生命活動の基盤を成す重要な代謝。この過程は,PSI(光化学系I)やPSII(光化学系II)と呼ばれる膜タンパク質複合体によって担われ,さらにLHC(光捕集複合体)が光エネルギーの効率的な捕集と伝達を支えている。LHCはクロロフィルやカロテノイドといった色素を含み,光合成装置の構造と機能の多様性に大きく寄与している。
緑藻類の一種であるTetraselmis属は,強い環境耐性を持ち,健康食品としての応用も期待されている。研究グループは,その中でもT. striata NIES-1019を対象とし,PSI-LHCI,PSII-LHCII,LHCを単離・精製し,それぞれの色素組成,蛍光特性,分子系統解析を通して,光合成装置の構造的特徴と進化的背景を明らかにした。
すべての複合体から,Tetraselmis属に特有と考えられるカロテノイド「loroxanthin decenoate」と「loroxanthin dodecenoate」が検出された。これらは他の緑藻では確認されておらず,進化的に獲得された独自の色素である可能性がある。また,蛍光特性の分析から,T. striataのPSIおよびPSIIの色素配置が,C. reinhardtiiや陸上植物とは異なることも示唆された。
分子系統解析では,PSIIの外周アンテナは他の緑藻と同様にLHCBMによる三量体構造が保存されている一方,PSIではC. reinhardtiiで確認されるLHCA4aやLHCA6aが存在せず,LHCA5aのみが検出された。これは,PSIのアンテナ構成がT. striata独自の進化を遂げていることを意味するという。
研究グループは,T. striataが属するChlorodendrophyceaeは,緑色植物の系統の中でも初期に分岐したグループであり,この研究は光合成色素タンパク質の多様性や進化的変遷を理解するうえで,極めて意義深い成果といえるとしている。