NECは,光ファイバーなどの物理的な経路を介さず,空間上で光のビームを送受信することで通信を行なう光空間通信において,地上で国内最長となる10km超の通信に成功した。また,東京スカイツリー展望台の屋上から約3km離れた地上との間での高度差通信にも成功した(ニュースリリース)。
光空間通信は,電波に比べて高速かつ大容量の無線通信が可能。指向性が高くビームが広がらないため,第三者による傍受のリスクが低く,通信の干渉や輻輳が起こりにくいこと,電波の利用申請が不要であることなどの特長がある。
これらを活かした用途としては,光ファイバーの設置が難しい場所・地域での通信や,海上船舶と地上間の通信などへの活用が期待されている。また,災害時の有線通信網の代替・緊急通信や,安全保障に関わる秘匿性の高い短距離・中距離通信への活用なども見込まれている。
一方,地上で行なう光空間通信では,陽炎にみられるような大気の揺らぎが通信に与える影響が距離に応じて大きくなること,また高度で異なる大気の揺らぎの把握が難しいことから,安定した通信の確保が困難といった課題がある。
今回同社は,通信システム向け捕捉・追尾技術や,人工衛星に活用している宇宙空間での長距離光通信技術を応用することで,これらの課題を解決し,地上の光空間通信において10km超の長距離通信と高度差通信に成功した。
このうち長距離試験は,栃木県那須塩原市において,10km以上離れた一対の光空間通信装置間で通信実証を行なった。この結果,長距離でも双方向の光ビームの自動捕捉・追尾が正しく機能し,通信できることを確認した。
高度差試験は,地上350mにある東京スカイツリー展望台の屋上と,約3km離れた地上の二地点間で光空間通信実証を行なった。その結果,通信できることを確認するとともに,高度差による大気の揺らぎが通信に与える影響を測定した。
同社は,今回の実証の成果を受けて技術開発を進め,通信品質を向上するとともに,装置サイズを約2m3から一人で持ち運べる100分の1程度に小型化し,2028年に製品化する予定。
また将来的には,国家レベルの重要な基幹システムなどに適用が期待されている量子暗号通信と光空間通信の技術を組み合わせた空間量子鍵配送技術を開発し,より秘匿性の高い通信を実現するとともに,この技術を地上と衛星間での通信にも適用することも視野に入れているという。