名古屋大学と理化学研究所は,有機溶媒への溶解性が低いナノカーボンの一種である多環芳香族炭化水素(PAH)を効率的に可溶化・変換させる新手法として「高溶解性スルホニウム化」の開発に成功した(ニュースリリース)。
主に六員環(ベンゼン)骨格から成るPAHは,天然に豊富に存在する有機化合物。これらを原料として有機反応によってさらに複雑な骨格を持つ有機分子へと変換することで,有機発光ダイオード,有機薄膜太陽電池,細胞組織の蛍光標識剤などへの応用が行なわれている。
しかし,PAHは平面性の高い構造を持ち,分子同士の相互作用が強く,水に不溶で有機溶媒への溶解性も非常に低いため,その化学変換や応用は多くの課題があった。そのため,PAHを可溶化させながら効率的に変換する手法の開発が望まれている。
研究では,有機溶媒だけでなく水への溶解性を高める「高溶解性スルホニウム基」の導入手法を新たに開発した。水,有機溶媒双方との溶媒和能が高いトリエチレングリコール側鎖を持つ高溶解性ジアリールスルホキシドを新たに合成し,酸性条件でPAHとともに反応させることで,PAH–スルホニウム塩が収率よく得られたとする。
PAH–スルホニウム塩の有機溶媒への高い溶解性を活かして,さらなる官能基変換やナノグラフェン合成が容易に行なえることが分かった。また,合成した水溶性ペリレンースルホニウム塩は,動物細胞中の細胞小器官であるミトコンドリアを選択的に蛍光標識できることも見出したという。
研究グループは,この研究が広範な多環芳香族化合物を効率的に変換・可溶化する新しい指針となると予想し,ナノグラフェン合成への応用だけでなく,蛍光標識剤としての利用など幅広い分野・用途での応用展開が期待されるとしている。