
京都大学と中央大学は,「水に溶けない有機物を水により還元変換する光触媒系」を開発した(ニュースリリース)。
緑色植物の光合成反応を模倣し,水を反応剤(電子・プロトン源)として用い,光エネルギーにより化合物を合成する「人工光合成」に関する研究は半世紀ほど前から行なわれてきた。しかしながら,従来の人工光合成研究では基本的に「水の光分解による水素生成」「CO2の還元による C1化合物生成」にその反応適用例が限定されていた。
一方で近年,有機合成化学の分野において,光エネルギーを用いた有機物変換反応に関する研究が盛んに行なわれている。光エネルギーを投入することにより,従来よりも低い加熱温度あるいは室温で機能する有機合成反応は魅力的だが,その多くの反応は犠牲試薬と呼ばれる反応剤や添加物が必要となる。
有機物の光変換反応を,水のみを反応剤として進行させることができれば,これまで実証反応例が限定されてきた人工光合成の適用範囲を広げられると期待される。しかし,多くの有機物は水に溶けないため,水を反応剤とした光反応は原理的に困難だった。
水相における水の酸化反応には,研究グループが独自開発した層状酸ハロゲン化物半導体粒子を光触媒として用いた。層状酸ハロゲン化物半導体が可視光(430nm)を吸収し,水を酸化して酸素分子(O2)を生成すると同時にフェロセニウムを還元してフェロセンを生成した。
生成したフェロセンは水への溶解度が極めて低いため,水と混和しない有機溶媒ジクロロエタンにより容易に抽出される。ジクロロエタンに抽出されたフェロセンにイリジウム錯体光触媒と反応基質となる有機物を共存させ,水を積層して可視光(470nm)を照射すると,有機物が還元変換されると同時に水相にフェロセニウムが再生成した。
これらのプロセスを通じて,水相において水を反応剤として汲み上げた電子をフェロセニウム/フェロセン分子がジクロロエタン相に向かって自発的に輸送し,水に溶けない有機物をジクロロエタン相で光還元変換することができた。
研究グループがこれまで開発してきた,”光エネルギーにより自発的に二相溶液間を移動し電子を運搬する”フェロセニウム/フェロセン分子によって異なる溶液相で分離された酸化と還元反応を結びつけることにより,”水に溶けない有機物”を”水を反応剤として変換する”ことに世界で初めて成功した。
研究グループは,創薬や材料開発などに欠かせない様々な有機合成反応を,光エネルギーとクリーンな水資源により進行させる技術へと発展する可能性を秘める成果だとしている。