東北大ら,反磁性体だが磁性を持つ薄膜を放射光分光

東北大学,高エネルギー加速器研究機構,量子科学技術研究開発機構,台湾同歩輻射研究中心,仏ロレーヌ大学,仏SOLEIL放射光施設は,クロムを含む反強磁性体Cr2Se3に着目し,分子線エピタキシー法によってグラフェン上にCr2Se3の二次元薄膜を成長させることに成功した(ニュースリリース)。

電子がもつミクロな磁石の性質である「スピン」が物質中で揃うと強磁性が発現する。もし原子レベルの薄さをもつ二次元物質で強磁性が実現すれば,次世代スピントロニクスへの応用が期待できる。しかし,理論的には二次元物質では磁気秩序が消失すると予測されていた。

研究グループは,ニ次元の極限で強磁性が実現すると理論的に予測されていた非vdW型のクロムセレン化合物Cr2Se3に着目。バルク状態のCr2Se3は,隣接するスピンが反平行に並ぶことで正味の磁化をもたない反強磁性体であり,磁性材料としての実用性はこれまでほとんど期待されていなかった。

研究グループは,分子線エピタキシー法を用い,グラフェン上にCr2Se3の1~3層(1層はSe-Cr-Se-Cr-Seの5原子層に対応)からなる超薄膜を作製することに成功した。

放射光を用いたX線磁気円二色性(XMCD)測定と,東北大学・KEKが共同開発したマイクロARPES装置による測定の結果,バルクとは異なり,これらの薄膜試料はいずれも強磁性を示すことが明らかになった。さらに,3層から1層へと膜厚を薄くするほど,TC(色温度)が150K,175K,225K(123.15℃,-98.15℃,-48.5℃)と段階的に上昇し,0K,175K,225K(123.15℃,-98.15℃,-48.5℃)と段階的に上昇し,TCが高い試料ほど伝導電子キャリアが増加することが分かった。

また,Cr2Se3薄膜とグラフェン基板のエネルギーバンド構造を精密に観測したところ,これらの電子キャリアは界面を介してグラフェンから注入された電子によって生じ,さらにCr3d電子に由来する伝導帯の「谷」(バレー電子)に起因したフェルミ面がスピン偏極する「スピン-バレー結合」を通して強磁性の安定化に寄与していることが判明した。

この成果は,スピン-バレー結合が高温強磁性の鍵となること,そして基板との接合によるキャリア注入によって薄膜強磁性を容易に制御できることを世界で初めて示したものだという。研究グループは,こうした高温強磁性のメカニズムを応用することで,次世代スピントロニクスデバイスや省エネルギー素子などへの発展的応用が期待されるとしている。

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