北海道大学の研究グループは,光が物質に与える,回転の力(光トルク)の源である角運動量を,スピンと軌道の二つに分け,それぞれの損失量を個別に測定・解析できる新たな理論を提案した(ニュースリリース)。
光には,まっすぐ進むだけでなく,回転という重要な性質があり,これが物質に働きかけることで回転の力が生まれる。その源は角運動量という物理量。
角運動量は,空間全体で保存される量であり,たとえ光が物質と相互作用して角運動量を失ったとしても,その分は物質に移り,光トルクとして作用する。これを記述するのが,光の角運動量の保存則となっている。
これまでの理論では,スピン角運動量や軌道角運動量は光の横波(進行方向と垂直な成分)のみで記述されており,物質が存在すると現れる縦波(進行方向に沿った成分)を扱うことができなかった。そのため,物質中でのそれらの保存則を正しく記述することが困難だった。
研究グループは,電場と磁場の時間変化だけを使って角運動量を定義し直した。この方法により,ベクトルポテンシャルを使わずに,しかも電磁場の縦波と横波の両方を含めた記述が可能となり,物質が存在する系でもスピンと軌道の角運動量を正確に分離し,それぞれの保存則を導出することができた。
さらに,この保存則の式には電荷密度や電流密度といった物質パラメーターが明示的に含まれており,スピンと軌道,それぞれの角運動量がどれだけ物質に失われたか(=光トルク)を個別に評価できるようになった。
研究グループは,この新しい理論を使って,円偏光や光渦といった光が物質と相互作用する際の回転の力の分布を解析した。特に,丸いナノ粒子に円偏光を当てた場合,粒子のサイズが大きくなるにつれてスピンから軌道への変換(スピン軌道変換)が顕著に起きることを明らかにした。
また,レンズで円偏光を強く集光したときにも,軌道角運動量が新たに生成される様子を確認した。これらはいずれも,スピンの損失が軌道への変換として現れている例。一方で,直線偏光で軌道角運動量を持つ光(光渦)を集光しても,スピン軌道変換が起きないことも分かったという。
研究グループは,この成果は,スピンと軌道が相互に変換される,スピン軌道変換の定量的な解析を可能にするほか,キラル材料やナノ構造体への応用,さらには光を用いた微細操作技術の基盤となることが期待されるとしている。