京都大学の研究グループは,木材塗装の劣化を非破壊・早期に予測する新たな技術を開発した(ニュースリリース)。
木材は紫外線・湿気・温度変化などの外的要因によって劣化しやすく,特に屋外で使用される場合には,塗装などによる表面保護とその維持管理が重要となっている。
木材塗装は比較的安価で施工しやすい手段である一方,その性能を持続させるためには,定期的な点検と再塗装が欠かせない。劣化が視認できるようになった時点では,すでに木材内部の腐朽が進行しているケースも少なくないため,早期の対応が重要とされている。こうした点検や補修には,目視による状態確認や塗膜の剥離処理など,時間と労力のかかる作業が伴い,実務上の負担も大きくなる。
また,塗膜の初期劣化は外見上ほとんど変化が見られず,従来の点検手法では見逃されてしまうことも少なくない。こうした状況から,目に見えない劣化を早期に検出して,メンテナンスの効率化と信頼性の向上を図る技術の必要性が高まっている。
研究グループは,中赤外分光法(ATR-FTIR)と機械学習による統計解析を組み合わせることで,木材塗装の潜在的な劣化を非破壊かつ高精度に予測する手法を開発した。
対象としたのは,木材用途においても一般的に使用されている水系アクリル樹脂塗料で,環境負荷の少ない塗装材料として位置づけられている。さらに,塗料中に植物由来のセルロースナノファイバー(CNF)を添加し,その濃度を変えた複数の塗膜を作製した。
CNFは,塗装木材の変色や割れの抑制に有効とされる新しい機能性添加剤であり,森林総合研究所と玄々化学工業株式会社の共同研究により木材塗料への応用が進められ,すでに市販製品としても展開されている。
これらの塗膜に対し,人工気象装置による加速劣化試験を行ない,劣化の進行とともに中赤外スペクトルを取得した。得られたスペクトルデータをもとに,回帰モデル(部分最小二乗法:PLS)を構築し,塗膜の劣化時間を数値として予測した。
塗膜の劣化は初期段階では視覚的な変化が乏しく,従来の目視点検では捉えにくいという課題があるが,今回の研究では,赤外分光によってそうした目に見えない劣化の兆候を化学的な変化として可視化し,それを統計的に解析することで,より客観的で高精度な診断を可能にした。
さらに遺伝的アルゴリズム(GA)による波数選択を組み合わせた発展的な手法(GAWNSPLS)を導入し,予測精度の向上とモデルの解釈性の両立を図った。
研究グループは,木造建築の利用が広がるなか,建物の長寿命化や点検作業の省力化,メンテナンスの効率化に大きく貢献すると期待されるとしている。
