高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,フェムト秒パルスレーザーを光源とする光電子顕微鏡装置(フェムト秒光電子顕微鏡)を用いて,半導体デバイスの動作下において,pn接合界面に形成され,電流の制御に重要な役割を担う空乏層の形状のイメージングに成功した(ニュースリリース)。
p型とn型半導体を接合すると,電気整流性(ダイオード)が発現する。pn接合接合界面は半導体デバイスの心臓部であり,界面に形成される空乏層が外部電圧の印加により形状変化することで,電流の流れを制御するバルブの役割を担う。
これを説明するShockleyが描いた空乏層のエネルギー構造の図は,電気的な計測と理論計算から推測されたもので,半導体デバイスの性能を直接評価するには,pn接合界面を可視化すること,つまりデバイスの断面を観測することが重要となる。
しかし,光電子顕微鏡を利用してミリメートル以下の小さい試料を観測する場合,試料端は構造欠陥となり膨大な量の光電子が放出される。これにより観測したい領域からの光電子が効率良く検出できなくなるという問題があった。
さらには,試料端から発生する電場が光電子軌道を歪めることで空間分解能の著しい低下を招くことも測定を困難にしている要因。今回,半導体デバイスが動作している環境で,デバイス断面を観測したことで,pn接合界面に形成される空乏層の構造変化を明らかにした。
パルスレーザーを光源とする光電子顕微鏡を利用して,半導体デバイスのひとつであるトンネルダイオードが動作する環境下でpn接合界面における空乏層の形状変化,さらには,トンネル電流のイメージングが可能であることを実証した。
この手法は,半導体デバイスの新たな評価方法として,幅広い半導体業界への応用が期待されるという。研究グループは,デバイス内部の空乏層を直接観察することで,新しい材料やデバイスの設計・開発の効率化が図られ,次世代の高性能半導体デバイスの実現に寄与することが期待されるとしている。