筑波大学の研究グループは,高塩濃度・高アルカリ環境に生息する紅色硫黄細菌Halorhodospira halophilaの光合成機構を解明した(ニュースリリース)。
この細菌は,硫化水素を利用して太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する光合成を行なう。光捕集2複合体(LH2)とコア光捕集反応中心複合体(LH1-RC)がこの過程で重要な役割を果たす。
研究グループは,クライオ電子顕微鏡を用いてLH2およびLH1-RCを含む試料溶液を観察し,LH1-LH2およびLH1-RCという複合体の形成を確認した。LH1は通常とは異なるポリペプチド鎖で構成されており,LH2またはRCを囲むような構造を持つことが明らかになった。
さらに,分子間のエネルギー移動計測実験を行なった結果,LH1-LH2複合体の光エネルギー転送効率がほぼ100%であることが判明した。この特殊なタンパク質複合体の構造が,高効率なエネルギー変換を可能にしていると考えられるという。
この細菌は,有毒な硫化水素を硫黄に変換しながら,極限環境下でも効率的に光合成を行なう。その仕組みを解明することは,太陽光エネルギーの有効活用や環境保全に応用できる可能性がある。この研究は,極限環境で生存する光合成細菌の適応戦略を理解する上でも重要だとする。
また,この細菌の光合成機構は,進化的に見ても特異なもの。LH1がLH2またはRCと結びついた構造は,他の光合成細菌ではほとんど確認されておらず,エネルギー転送の効率向上に寄与していると考えられる。この発見により,極限環境に適応する生物のメカニズムを探る新たな視点が得られるという。
この研究の成果は,光合成細菌を活用したエネルギー変換技術の発展にも寄与すると期待される。光合成の仕組みを模倣した人工光合成システムの開発や,バイオテクノロジー分野への応用が考えられることから,今回の発見をもとに,さらなる研究が進められれば,新たなエネルギー利用技術の開発につながる可能性があるとしている。