京大ら,量子渦の回転方向の実験的な確定技術を確立

著者: umemura maika

京都大学,大阪大学,大阪市立大学,米国立高磁場研究所,米フロリダ州立大学は,極低温の超流動ヘリウム中の量子渦を「揺さぶる」ことで,渦の中心線(渦糸)が,らせん状に揺れ動く,ケルビン波と呼ばれる状態を初めて意図的に生み出すことに成功した(ニュースリリース)。

超流動ヘリウム中では,渦が量子的性質を持つため,渦が非常に細い,渦が途中で途切れない,強さ(循環)が,どの渦についても同一で,時間的にも変化しないなどの特徴を持つ。

このユニークな特徴により,量子渦は,渦の研究の理想的なプラットフォームとして期待されている。しかし,量子渦の実験的な研究にはまだまだ困難が多く,技術的制約を解決する必要がある。特に,量子渦の中心線がらせん状に波打つ,ケルビン波と呼ばれる状態については,理論的にある程度の研究が進み,量子渦の物理を理解するために非常に重要である事がわかっていたが,実験的にケルビン波を生み出すための手法が存在せず,大きな障害となっていた。

ケルビン波は1880年に英国の大物理学者ケルビン卿が提唱した現象。水などの古典流体においては膨大な研究があるが,ケルビン卿の当初の発想が理想的な形で現れる量子流体中での実験的研究はあまり進んでいなかった。

研究では,光を用いて微粒子を作製するレーザーアブレーションによって,帯電した微粒子を用意できる,という点が大きなブレークスルーに繋がった。これまでの研究で,超流動ヘリウム中に微粒子を大量に導入すると,その微粒子群が量子渦に捕らえられ,微粒子が量子渦の中心線上に整列することがわかっていた。

つまり,量子渦と微粒子群が一体となって動く状態を用意できる。この中の一つの微粒子が帯電している状況で,外部から交流電場を加えることで,量子渦を周期的に揺さぶることが可能になった。

また,揺さぶられた状態にある量子渦の様子を2方向から同時にカメラで撮影することで,その3次元的なダイナミクスを可視化することに成功した。その結果,確かに量子渦の中心線がらせん的に振動する様子を確認し,ケルビン波が生成されていることを実証した。

さらに,ケルビン波のらせんが右巻きであるか左巻きであるか,ケルビン波がどの方向に伝わっていくのか,といった情報を元にすると,量子渦の回転方向を確定できることも明らかにした。従来,量子渦の回転方向を直接に観察することはできず,それを推定する実験的手法も存在しなかった。この研究により,回転方向を確実に決定できる手法が確立できたという。

研究グループは,今後,量子渦の実験的研究の大きな発展が期待されるとしている。

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