東工大,動く光で高分子合成のエネルギー効率を改善 

東京工業大学の研究グループは,高分子合成における光重合効率を格段に向上させる新たな手法を開発した(ニュースリリース)。

近年のものづくりの現場では,材料製造時のエネルギー消費の増大や環境負荷の増大が大きな問題となっている。高分子材料の製造プロセスとして用いられる技術の一つに光重合がある。

これは光照射により重合反応を開始し,高分子を合成する手法である。このプロセスでは,多量の光エネルギーを使用するため,光重合技術の進展によるエネルギー効率の向上や環境負荷の軽減が望まれている。

今回研究グループは,光を動かしながら照射し重合することで,分子量の大きな高分子を低エネルギーで合成する手法を開発した。

この手法においてはスリット状の光を一方向に動かしながら光重合を進行させた場合と,光を動かさずに全面を均一に照射して光重合を進行させた場合での生成物の違いを比較した。その結果,光を動かし流動場中で重合することで,生成高分子の分子量は1.5–20倍,重合完了に必要な露光エネルギーは最大1/10になることを発見した。

光照射下で進行する反応はラジカル重合と呼ばれるものであり,ラジカル重合には,(1)ラジカルがモノマーに付加することによる反応の開始,(2)モノマーに付加したラジカルが新たなモノマーに連鎖的に付加する成長,(3)ラジカル同士が衝突することによる反応の停止という3つの過程が存在する。

一般的な静止光による光重合では露光エネルギーが多くなるほど,系中に同時に大量のラジカルが発生するため,モノマーへのラジカル付加による反応開始(1)とラジカル同士の衝突による反応停止過程(3)の頻度が高くなり,成長過程(2)が進みづらくなる。その結果,露光エネルギーの増大に伴ってモノマー転化率は緩やかに増加し,生成高分子の分子量は減少する。

対して,動く光を利用した場合は,光が照射されている部分的な領域でのみラジカルが発生し重合反応が進行する。照射部でのみ高分子が生成することで,照射部と非照射部の高分子の濃度勾配が生じる。濃度差を埋めるため,成長途中の高分子は非照射部に拡散し重合反応を継続する。

拡散した高分子は,光が当たっていないラジカル濃度が非常に低い空間で反応するため,停止反応が抑制される。したがって,動く光を利用することで成長過程(2)が進行しやすくなり,分子量が大きな高分子を極めて効率よく生成することができる。

研究グループは,低エネルギー消費の材料製造が実現することで,持続可能な社会への移行が促進されるとともに,材料の価格低下による高機能材料・デバイスの普及が期待できるとしている。

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