【主張】光技術者育成のための教育体系を

 2025年度から就学支援金の所得制限が撤廃され,高校授業料の実質的な無償化に向けて大きく進展する。その高校で学ぶ授業内容,つまり学習指導要領の次回改訂に向けての動きもこれから本格化する。

 すでに有識者検討会が組織され,「論点整理」の答申があり,今年10月からは教科別ワーキンググループがスタートする予定である。そこで理工系に進む将来の光技術者の教育課程の現状について考えてみたい。彼らの将来が日本の光技術立国を支えるはずだが,今の教育課程がそれに相応しいものであるのか疑念が沸いたからである。

 古典物理学は力学と電磁気学で構成され,前者はニュートンの運動方程式,後者はマクスウェルの方程式が基本法則である。たった二つの法則から多様な現象が説明できることを体験するのが物理を学ぶ醍醐味である。

 

 しかし,中学ではニュートンの運動方程式を質量(重さ)に加速度をかけたものが力と教え,なぜ,質量,加速度,力が関係を持つのか惑わせつつ,坂道を落ちていく物体や,ばねにつながった球体の動きを個々の公式で解かせる。高校になると状況が一変し見通しが開けてくる。例えば,時々刻々の変化の表現として微分を習うと,この運動方程式は,「ものに力を加えると動き出し,時々刻々と速度が増す。重くなればその分,力も必要。重さに応じてどれだけ加速できるかが力だ。そして,時々刻々変化する速さがわかれば移動距離(位置)はこの式の逆算(積分)でわかる」という微分方程式となる。

 この微分方程式を解きながら,あのニュートンがたどった,地球引力によるリンゴの落下と月の軌道計算を一つの法則から導く事は,理系選択した高校3年生にとってエキサイティングな知的体験で自然科学系に進む強い動機にもなる。しかし,現在の指導要領はこの体験を高校生から奪っている事に気づき冒頭の疑念につながっている。

 前置きが長くなった。微分方程式や行列等,自然科学を表現する数学様式がいつのまにか高校の理系のカリキュラムから削除,もしくは簡素化されているが,大きな改悪である。この変更はゆとり教育の結果だが,これらを大学入学後に教えるというのでは大学の先生方の苦労がしのばれる。同時に大学入学前にすべき躍動感あふれる体験を高校生から奪っている。

 この事を指導要領策定の関係者は重く受け止めるべきである。ゆとり教育は10 代の時間を知識の詰め込みと受験勉強に必要以上に浪費させない為であるが,これらの数学分野の削除は問題ごとに公式を覚える暗記を誘発し,この世の中がバラバラな公式の寄せ集めでは無く,ニュートンやマクスウェル方程式の様な基本法則で統一的に整合性をもって説明でき,それが自然科学を進展させた天才達のモチベーションになったという科学史上の事実を体感することも妨げている。

 また,受験戦争の加熱はカリキュラムの難易では無く,学歴フィルター等の社会背景によることは証明済みである。理系のカリキュラムで大切なことは,10代半ばのフレッシュな頭脳にふさわしい創造性を体験させることである。理系にエリート教育をすべきと論ずるつもりは毛頭ないが,自然科学系を選択したからこそ味わえる知的躍動感を大学入学前に体感でき,大学ではそれを前提とした講義を可能とする,そういうカリキュラム改訂が将来の日本の光技術,技術立国日本のために必要である。

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