―小型化・高耐久化はどのように進むと考えられますか
これまでのレーザー開発は,大出力化とともに装置も大型化してきました。しかし今後は,ビーム径を一定以下に抑え,複数ビームを組み合わせる方向に進みます。AIやコンピュータ技術を活用したスマート化も重要で,対象との「対話的」な制御が可能になるでしょう。
また,光学薄膜(多層膜)の耐久性を飛躍的に高める技術も登場しています。従来比で10倍の強度を持つ新しいコーティング技術が開発されつつあり,これが実用化されれば,レーザーシステムのサイズ・構成も大きく変わります。
―現在進行中の主要プロジェクトを教えてください
現在,ハイパワーの繰り返しレーザーを開発する「J-EPoCHプロジェクト」が文部科学省の採択を受け進行中です。その次の段階として「HYPERION計画」があります。これは2040年に核融合発電の実証を目指すもので,米国がメガジュール級のレーザーで発電を試みるのに対し,日本は数百キロジュール級で小学校の体育館規模の発電炉を想定しています。まずはデータセンター向けに50MW級の小型電源として実用化を狙います。
宇宙分野では,宇宙デブリ除去を目的とした「GOBLET(Ground-Based Laser Elimination and Tracking)計画」があります。宇宙デブリというのは色々な種類がありますが、サイズが5mm以下のデブリは人工衛星で防御することができています。さらに10㎝以上のデブリに関してもNASAによって全て軌道が監視されています。
しかし、確認できていないのが、5㎜~1cmです。このサイズのデブリを観測する手段は現在のところ確立されていません。デブリを除去するためには、まずはきちんと観測しなければいけないので、我々は新しい観測手法を提案しています。開発は「ホルス計画」で推進しています。特にホルス計画では,これまで観測が難しかった5mm〜1cmサイズのデブリを捕捉できる技術を目指しており,宇宙インフラの安全性を高める鍵になるでしょう。
―パワーレーザーはどの産業・社会課題の解決に貢献できるのでしょうか
エネルギー(核融合)を筆頭に,宇宙インフラ整備,新素材開発など,パワーレーザーの応用範囲は非常に広いです。海外では安全保障分野への活用も進んでいますが,日本では大学研究に制約が多く,技術ポテンシャルを十分に活かせていません。もし制度や環境が整えば,日本のレーザー技術は国内外でさらに強い影響力を持つはずです。
国際連携と人材育成の重要性
―国際共同研究・連携の望ましい形は
学術研究では多国間のオープンな連携が有効ですが,技術開発となると安全保障上の制約があるため,二国間連携が現実的です。例えば,日本―米国,日本―英国といった軸を作り,その共通部分だけを三国間で共有するような形です。各国の安全保障基準は異なるため,単純な多国間連携は困難です。戦略的に連携構造を組み立てることが重要です。
―今後5〜10年の研究方向と期待についてお聞かせください
AIと繰り返しレーザーの融合が鍵です。実験データとシミュレーションを統合する「デジタルツイン」的手法により,レーザーの振る舞いを高精度に予測できるようになります。適応的で自律的なスマートレーザーシステムが現実となり,材料技術の進展と相まって,装置はより小型・高効率化します。
さらに,従来の固体レーザーに代わる新しいレーザー概念が芽吹き始めています。これが実を結べば,パワーレーザーの常識が大きく変わるでしょう。この10年はまさに「次のレーザー技術の地平」が開ける時代になると考えています。
―若手研究者・学生へのメッセージをお願いします
パワーレーザーの基礎的な原理実証はすでにできていますが,繰り返しレーザーが本格的に社会を変えていくのはこれからです。その「兆し」をいち早く感じ取ることが重要です。変化が見えてからでは遅い。若い研究者・学生には,フレッシュな感性で変化を敏感に捉え,新しい時代を切り拓いていってほしいと思います。
(聞き手:三島滋弘)



