光技術・研究でつながるネットワークを大切に

通常は1μm前後の波長が使用され,眼科用では0.8μm,他の部位では1.3μmが良く使われますが,より長波長の方が,散乱が小さくなります。そこで我々はファイバー非線形効果によりシフトさせた1.7μmの波長帯の高出力ファイバーレーザーを開発しました。これを用いて深部イメージングに取り組んでいるところです。

実際に,マウスの脳をイメージングした際,海馬辺りまで見え,さらに神経組織まで綺麗に見えるということで,非常にインパクトのある結果が出て注目されているところです。
今後さらに高速化などを進め,実際に生きたままの脳細胞をイメージングするため,医学部の先生と研究を進めています。

─ファイバー非線形効果を使用することでさらに長波長に変換できたりするのでしょうか?

できますね。今,より広帯域化に取り組んでいます。現在は1.5 ~2μmが普通にできます。また,スーパーコンティニューム光源では1 ~2μmですが,我々は可視域から近赤を全てカバ ーしたりということもできています。スーパーコンティニューム光源は超広帯域が,レーザー光として機能する光源なので,すごくポテンシャルは高いと思います。

─非常に興味深い研究内容をお聞かせいただきました。研究活動に加え,学会活動についてもお
聞きしたいと思います。先生は応用物理学会・フォトニクス分科会の幹事長を務められていらっ
しゃいますが,就任された際を振り返っての思いとこれまでの取り組み,今後についてお聞かせ
ください。

応用物理学会にはいくつかの分科会が組織されていますが,その中でもフォトニクス分科会は最も大きな分科会です。その幹事長を昨年から担当させていただいております。会員数は800名を超えておりまして,優秀な若手研究者の方々に幹事をご担当いただいています。

光技術というのは,サイエンスの分野から産業分野まで,応用範囲が広いのが大きな特長だと思いますが,そういう意味でフォトニクス分科会には様々な分野の方々が参画しております。そういった方々とお会いしてお話しする機会が増えまして,非常に刺激があり,視野を広げることができます。ですから,まずはこの機会に会員になっていただき,一緒に光の分野を盛り上げて行ければと思っています。

私が大きな役割として掲げているのが,アカデミアとインダストリーの橋渡しです。これは前幹事長の栗村直さん(物質材料研究機構)がよく言われていたことですけども,大きな目標の一つとなっています。

オプトロニクスさんにもご協力いただきましたが,現在,展示会に併設したセミナー企画の件数を増やしています。この夏に関西で開催されました展示会『光・レーザー関西2022』では,本分科会企画のセミナー『バイオフォトニクスの最前線~生体イメージング・バイオセンシングの新展開~』を開催しましたが,大変盛況でした。関西での展示会はこれまで少なかったと思いますが,今後もそういった活動を発展させていく予定です。

また,光の分野というのは,日本光学会やレーザー学会など,複数の学術団体があります。しかし,組織を見てみますと,同じような方々が委員として運営に携わっていたりするケースも多くあります。そのため,リソースが分散してしまっている面もあると思いますので,他学会とも連携を取りながら進めていく必要があると思っています。

実際,レーザー学会や日本光学会と共催のシンポジウムなどの企画を進めていますが,ぜひ協力して連携を取りながら,より有意義な企画を開催し,フォトニクス分野全体を盛り上げていきたいと考えています。

─新たな取り組みも考えられているのでしょうか?

今年度は新しい大きな取り組みとして,光分野の英文誌の創刊があります。コロナ禍で,国際会議や学術講演会ではリアルに集客することができなかったのがしばらく続いたので,世界の学会というのは皆,学術雑誌の投稿に力を注いでいたんです。この数年間で光の分野でもいくつか世界的に新しい雑誌が立ち上がったりしました。

中国でも複数の英文誌が成長し,今ではインパクトファクターが高い雑誌に成長しています。しかし日本には,残念ながら非常に優秀な光の分野の研究者はいるものの,世界的に有力な雑誌というのはないという状況でした。そこで,フォトニクス分科会を中心に,他の学術協会と連携し,光の分野の有力な英文の学術誌『Photonics Review』を作ろうということでその準備をスタートしました。

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