新時代の秒へ,光格子時計で挑む未来

そもそも光格子時計とは?

光格子時計は,東京大学の香取秀俊先生が提唱した,魔法波長という考え方に基づく技術です。魔法波長の光で干渉縞を作ることで,従来はイオン1 個で測定していたものを,中性原子を場合によっては100 万個も捕まえて平均を取ることができます。原子を大量に一度に測定することでばらつきが抑えられ,少ない測定でも非常に安定した,正確な周波数を得られるのです。これが光格子時計の肝となる部分です。

測定の間,原子は動かないように真空中に静止させておく必要があります。また,原子同士が衝突して相互に干渉しないよう,区分けして閉じ込める仕組みが光格子です。しかし,光格子に閉じ込めると今度は光からエネルギーを受け,原子の状態が変化してしまいます。香取先生は,この影響を打ち消す魔法波長を見出しました。これにより,基底状態と励起状態が同じようにシフトし,原子としての振る舞いは変わらないまま測定できるようになったのです。

少し歴史を振り返ると,光格子時計の概念がなかった頃,最高精度を誇っていたのは単一イオン時計でした。例えばストロンチウムを1個だけイオンとして捕らえ,電場で保持して測定する方式です。素性は良いのですが,1個だけでは測定ごとの誤差が大きく,安定性が限られます。そこで中性原子を使い,狭い領域に多く集められる光ポテンシャル=光格子を利用するという発想に至ります。問題はレーザー光が原子にエネルギーを与えて状態を変えてしまうことですが,この課題を魔法波長の発見が解決しました。実際の測定手順は青色レーザーで原子の動きを抑え,減速させます。次に赤色レーザーを使い,青色よりもさらに穏やかな冷却で原子を安定した状態まで持っていきます。その後,波長813 nmの近赤外レーザーで光格子を作ります。十分に冷やされた原子は,この緩いポテンシャルの中で安定して留まることができます。

その状態で,今度は時計遷移と呼ばれる原子固有の非常に正確な振動数に合わせてレーザーを照射し,最も吸収が大きいポイントを探ります。この遷移の波長は698nm,周波数にすると約429 テラヘルツ(THz)という非常に高い値です。この高周波数を計測するには,光の周波数を電気的に扱える形に変換する光周波数コムという技術が使われます。これにより,初めて電気的に正確な周波数として読み取ることができます。

光格子時計の構成には主に6 種類の波長が必要です。原子の減速・冷却には青色レーザー(461 nm),赤色レーザー(689 nm,679 nm),緑色レーザー(496 nm)を使い,光格子の形成には813 nmのレーザーを使用します。さらに,読み出し用として698 nmと461 nmのレーザーが必要です。これら6波長を含む合計7 つのレーザーで光格子時計は構成されています。

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