電子状態計測で挑むEUV露光光源用プラズマの最適設計

3. 光源用多価電離プラズマのLTS計測

3.1 EUV露光のための光源プラズマ開発

ここで改めてEUV露光技術について述べる5)。波長13.5nm(±1%幅)を用いた極端紫外(Extreme-ultraviolet,EUV)露光は,ArFエキシマレーザー(波長193nm,液浸ArFは134nm相当)の次の光露光技術として実用化しつつある。露光装置の核である光源は,Snにパルスレーザーを照射して生成した多価電離プラズマである。

既に250W以上の安定出力が確認されているが5),スループット向上にむけ,さらなる出力改善が求められている。Snの多価電離プラズマ状態が光源として用いられるのは,適切なイオン価数Z(10-12価)のSnプラズマであれば,数千に及ぶ電子遷移線(主に4d-4f遷移)が,波長13.5nm付近に存在することが原子物理計算から示唆され,実験的にも発光スペクトルとして確認されているからである7)

適切なZが実現されうるプラズマのne,Teが,衝突・放射モデルで見積もられ,それぞれ1024-1025m–3,30-40eV(1eVは11,300K)程度であると算出されている。

佐々木らは原子物理計算により,in-bandEUV光の輝度(Emissivity)がイオン密度niとTeで決定され,それらの定量的な関係を報告している7)。ni(=ne/Z)が増加するとEUV光も増加傾向にあるが,自己吸収も強くなるので飽和傾向をしめす4)

特筆すべきはTeであり,EUV光量のピーク値を示す30-40eVに向けて,Emissivityは急激に増加する。例えば10eVの場合のEmissivityは30eVの場合の1/300以下であり,そのようなプラズマを生成しても,発光への寄与はあまり期待できないことになる。

また,40eVを超えてもEmissivityは減少するので高すぎる温度も避けるべきである。このようにEUV光はTeで著しく変化するため,光源設計において本来Teは最優先されるべきパラメータである。しかし微小(<0.5mm)・短寿命(<30ns)なEUV光源内のTeおよびneの空間構造・時間進展を計測することは難しく,現状では制御パラメータとして取り扱えていない。

LTS法であれば原理的には十分な時間・空間分解能でne,Teの計測が可能であり,同法のEUV光源への適用を進めた。

3.2 EUV光源用プラズマのLTS計測

図1 EUV光源用プラズマの初期形状と発光の様子

現在,高効率EUV光源は,ミスト状に膨張させたスズターゲットに複数のCO2レーザー(パルス幅20ns程度)を照射して生成する。液滴スズの発生やレーザーには高度な制御が求められ,露光光源を開発するギガフォトン(株)が所有するテスト機を利用する必要があった。

そこで,同社の実験室内で新たに差分散型6回折格子分光器を組み立て,協同トムソン散乱のうち,イオン項スペクトルの計測を行った8)。プラズマ生成方法について説明する9)

直径26μmの液滴Snは,ピコ秒パルスレーザーでミスト状に膨張させ,異なる3タイミングで炭酸ガス(CO2)レーザー照射を行った(ピコ秒レーザーからの遅延時間∆tが1.3μs,2.0μs,2.5μs)。

図2 LTS計測配位

∆tが2.0μsの場合の,CO2レーザー照射直前の膨張したSnターゲットのシャドウグラフと,EUV(13.5nm±1%幅)発光強度を図1に示す。同図には変換効率(CO2レーザーエネルギーからEUV光への変換効率)も示す。

図3 (a)計測レーザーと分光器スリット(計測)方向の関係。(b),(c) イオン項スペクトル例と(d)それから読み取れるne,Teの空間分布

∆t=2.0μsが最も効率が良い結果が良く,変換効率は4%に達した。LTS計測構成を図2に示す。

計測用レーザー(YAGレーザー第2高調波,波長532nm)を前述のピコ秒プリパルスおよびCO2レーザーと同軸に入射した(図のx軸方向)。その方向に分光器入口スリット高さ方向を合わせることで,分光器出口上に波長とx軸上の空間分布の2次元分布を形成させ,電子増倍管CCDカメラ(ICCDカメラ)で捉えた(図3(a)~(c))。

図3(b)には,–200μm図3(b)には右上より左下に走る2本のイオン項スペクトルのピークが見られるが,これは光のドップラーシフトの結果であり,プラズマが移動する速度と方向を反映したものである。

図3(b)の白い破線で示した領域を波長スペクトルとして示したものが図3(c)であり,理論スペクトルのフィッティング(図3(c)内の実線)よりこの位置でのne,Te,Zが決定できる。図3(b)の各位置で同様の解析を行い,図3(d)に示すneやTeの1次元分布が得られる。

同じカテゴリの連載記事

  • 半導体量子ドット薄膜により光増感した伝搬型表面プラズモンの高精度イメージング 大阪公立大学 渋田昌弘 2024年03月06日
  • 大気環境情報のレーザーセンシング技術 (国研)情報通信研究機構 青木 誠,岩井宏徳 2024年02月12日
  • 光の波長情報を検出可能なフィルタフリー波長センサの開発 豊橋技術科学大学 崔 容俊,澤田和明 2024年01月15日
  • 熱延伸技術による多機能ファイバーセンサーの新次元:生体システム解明へのアプローチ 東北大学 郭 媛元 2023年12月07日
  • 非破壊細胞診断のための新ペイント式ラマン顕微システム (国研)産業技術総合研究所 赤木祐香 2023年11月14日
  • 長波長光応答性酸窒化物光触媒の製造と水分解反応への応用 信州大学 久富 隆史 2023年11月06日
  • 柔軟モノリス型多孔体「マシュマロゲル」の内部散乱を利用した光学式触覚センサー (国研)物質・材料研究機構 早瀬 元 2023年09月26日
  • 円偏光純度と明るさを両立させる発光式円偏光コンバータの開発 京都大学 岡﨑 豊 2023年08月22日