レーザーせん断応力計と知的乱流制御

1. はじめに

船舶における摩擦抵抗低減技術開発で,特に流体と船底との接触によって摩擦抵抗が生じる。船体が占める全抵抗の50〜70%にも及び,流体と接触する表面積に比例するため大型になるほど影響が大きい。摩擦抵抗低減させるための実用的な省エネルギー技術開発は,船舶分野において長年の課題となっている。これまで数多くの船舶摩擦抵抗低減のための省エネルギーディバイスが発明されてきたが,空気潤滑法の発明は成功した例であり,国際的な競争までに発展している1)

この方法は船底に空気吹出口を設置するのみのシンプルな構造なため既存船舶,新造船の両者に導入しやすい。特に空気を吹き込むだけなので環境に与える負荷が小さいことは容易に想像できる。船舶の船底に空気を潤滑させることで,船舶の省エネ効果を向上させる技術はすでに実用化されており,5%程度の省エネ効果が確認されている。しかし,初期の研究フェーズにおける空気潤滑法は受動的な方法であり,摩擦抵抗低減の効果は吹き込まれる空気量によって決まってしまう程度で学術的な有効性を失っていた。

近年,新たな研究成果により抵抗低減時に気泡変形の効果2, 3)や気泡分布のパターンに特徴があることがわかってきた。とりわけ,気泡を周期的に注入することで人工的なボイド波を形成することにより,連続注入した気泡よりも抵抗低減効果が大きくなることが発見された4)。気泡分布パターンの形成は船舶船底のような水平壁面を気泡がスライドし,気泡のサイズに径分散が起きることで気泡の集団化が促進される5)。つまり,この粗密差が起きる混相流の力学の現象である。これは能動的に気泡を操作し,抵抗低減効果を制御できることを示している。

実証の段階へ展開するためには,乱流・気泡流の流体現象の特徴量を抽出するため時間分解能の高いディバイスが必要とされる。本研究では船舶の巡航速度に対応する高速流体のせん断応力計のセンサー開発を行った。特に従来までのセンサーには高速に流れる液体のせん断応力を計測できる装置はなかった。そこで,本研究では高速に流れる気泡流せん断応力の開発を行った。開発したセンサーはレーザーせん断応力計であり,レーザードップラーの基本原理を変位計に採用することで,気泡が注入された乱流場におけるせん断応力を評価した。2章にレーザーせん断応力計の基本原理を説明し,計測事例を3章(高速水槽実験),4章(曳航水槽実験)を紹介する。最後に5章でまとめを行う。

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