量子光コヒーレンストモグラフィ ─量子もつれ光による超高分解能光計測の実現に向けて

2. 量子光コヒーレンストモグラフィとは

図1 (a)光コヒーレンストモグラフィ(OCT)および(b)量子光コヒーレンストモグラフィ(量子OCT)の原理図7)
図1 (a)光コヒーレンストモグラフィ(OCT)および(b)量子光コヒーレンストモグラフィ(量子OCT)の原理図7)

 まずOCTについて説明する。OCTは,低コヒーレンス光干渉を応用した断層イメージング技術である2, 3)。通常のマイケルソン・モーレー型の光干渉計では,光源からの光をビームスプリッタで分岐し,再び合波して干渉させた光の強度を,光検出器で測定する(図1(a))。この時,2つの経路の光路長が一致する場合に,干渉信号が得られる。この性質を利用し,一方の経路にサンプルを配置したのがOCTである。遅延ミラーで参照側の経路の光路長を掃引し,干渉信号の位置を検出することで,サンプル内での光の反射位置(=被測定物の位置)を知ることができる。

この時,OCTの分解能は,干渉縞の波束の拡がり(包絡線の半値全幅)に対応し,より高い分解能を得るためには,より広帯域な光源が必要になる。一方で,光源が広帯域になるほど,サンプル内の群速度分散の影響をより大きく受け,干渉縞が拡がってしまうという悩ましい問題がある。

これに対して,サンプルと同じ分散を持った媒質(ファントム)を参照側の経路に挿入して分散を補償する方法が知られている。しかしそのためには,サンプルの構造や屈折率など分散に関する情報が必要となる。また分解能が高くなると,サンプルとファントムのわずかな分散の差が問題となるため,完全な補償が困難となる。

 一方,量子OCTでは,ポンプ光を非線形結晶に入射して発生させた量子もつれ光10)を光源として用いる(図1(b))。エネルギー保存則によって,発生した2つの光子は,その周波数の和が,ポンプ光の周波数と常に等しくなければならない。このようにして,周波数に関して量子力学的にもつれ合った状態となる。それら2つの光子は,参照側とサンプル側のそれぞれの経路を進み,ビームスプリッタで重なる。ここで2つの経路長が一致する時,「二光子量子干渉」が生じる11)

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