【主張】政府・業界はペロブスカイト太陽電池の普及に丁寧な説明を

著者: 梅村 舞香

ペロブスカイト太陽電池の実用化が目前に迫っている。ペロブスカイト太陽電池は軽量かつフレキシブルであり,さらにシリコン太陽電池並みの高い変換効率を誇るなど,優れた特性を備える。そのため,従来は太陽電池パネルの設置が困難であったビルの壁面などで発電を行なうことで,都市部においてもエネルギー生産が可能となる。

ペロブスカイト太陽電池の発明国である日本には,その実用化に必要な知見を持つ企業や大学,研究機関が集積しており,一部の企業では量産の開始を目前に控えている。一方で,ガラス基板を用いることで軽量性やフレキシビリティが損なわれるものの,中国ではすでにペロブスカイトとシリコンを組み合わせたタンデム型太陽電池の製造が始まっており,日本も気を緩めることはできない。

さらに懸念されるのは,太陽電池に対する世間の見方の変化だ。最近,SNSなどで太陽電池に対するネガティブな意見が多く見られるようになった。その要因の一つに,メガソーラー発電所による景観破壊がある。美しい自然が大量の太陽光パネルで覆われる光景は衝撃的であり,一部の地方自治体では新規のメガソーラー設置を規制する動きも見られる。

また,シリコン太陽電池パネルの生産地の中心が中国であることから,太陽電池への批判には政治的なイデオロギーが絡むケースもあり,これに派生する形で「太陽電池の廃棄が環境汚染を招く」「太陽電池の火災は消火できない」といった事実に基づかない情報も拡散されている。こうした風潮が,太陽電池そのものを危険視する土壌を生みつつあることは懸念される。

メガソーラーによる景観破壊は,再生可能エネルギーの普及を急いだFIT(固定価格買取制度)の副作用として発生した問題であり,政府は今後,太陽光発電をいかに環境と調和させながら活用していくのかについて,明確な方針を示す必要がある。また,業界団体は根拠のない噂を放置することなく,科学的なエビデンスに基づいた適切な反論を行なうべきだ。

ペロブスカイト太陽電池には鉛を含むという課題があり,これが普及のアキレス腱となる可能性がある。現在,鉛を代替する技術の開発も進められているが,実用化には時間を要する。そのため,廃棄された太陽電池の確実な回収を含め,環境中に鉛を放出させない仕組みづくりが不可欠となる。加えて,こうした対策を丁寧に説明し,社会の理解を得ることが,ペロブスカイト太陽電池の本格的な普及と社会的な受容の鍵を握るだろう。

このコラムでは光技術・光産業,さらには科学技術政策の諸課題について,広く,深く掘り下げ論考するとともに,ときには弊誌の持論も披露していきます。

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