近畿大学と日本分光は,静水圧(100MPa)という高圧環境下での円偏光発光の計測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
特定の方向に振動する光を偏光といい,中でも円偏光はらせん状に回転する特殊な光で,次世代のセンシング技術や光通信技術への活用が期待されている。
円偏光発光は光学活性な物質から生じるが,その特性は温度や溶媒など環境条件に左右される。さまざまな環境条件のなかでも,圧力は物質の電子状態や分子配置に大きな影響を与えるため,特殊な圧力条件下では円偏光発光に新しい特性や原理を引き出せる可能性がある。
また,高圧下での円偏光発光測定は,外部環境が物質の電子状態や発光機構をどのように変化させるかを理解する上でも重要。しかし,これまで溶液中における高圧という極限環境を利用した円偏光発光に関する研究は行なわれていなかった。
研究グループは,2つのピレン環を導入し,その間隔を段階的に変化させた計8種類(DD/LL)のキラルオリゴペプチドを合成した。これらをジクロロメタン溶液中で用い,フォトルミネッセンス(PL)および円偏光発光(CPL)を,静水圧100MPaという高圧条件下で測定した。測定には,YAG窓高圧セルとCPL-300円偏光ルミネッセンス測定システムを組み合わせた高圧CPL計測系を使用した。
まず大気圧下では,モノマー由来のPL(379-396nm)に加え,エキシマー由来のPL(460-470nm)と,その鏡像関係を示すエキシマー由来CPL(λCPL 461-469nm)を観測した。さらに,100MPaの高圧下においても,エキシマー由来CPL(λCPL 461-485nm)を明瞭に検出することに成功した。
大気圧下から高圧下に条件が変化することで,エキシマー由来CPLの波長がわずかに長波長側にずれる微小レッドシフトが見られたうえ,エキシマーPL強度比に応じてCPL強度も低下し,圧力によりピレン環が積み重なる構造が変化して発光に必要な配置が部分的に崩れることを示唆した。
以上の結果から,溶液中の光励起状態におけるキラリティを,圧力という外部要因で制御・評価できる汎用的なプラットフォームを初めて実証した。
研究グループは,この研究成果により,溶液中の光学的な活性を圧力で操作・評価できる新たなプラットフォームの構築が可能になるとともに,極限環境でのセンサー技術や圧力応答型の表示・認証,環境変動を検知する光学技術,さらには次世代光通信技術などへの応用が期待されるとしている。




