東京大学の研究グループは,原子分解能透過電子顕微鏡を用いて,ダイヤモンド骨格であるアダマンタン(Ad)の結晶に電子線照射することで,ナノサイズの球形のダイヤモンドを合成することに成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは高温高圧での安定相であるため,天然ダイヤモンドは地中深くで生成し,また人工ダイヤモンドの合成は一般に高温・高圧の苛烈な条件が必要となる。このような合成法の制限もあり,これまでナノスケールのダイヤモンド(ND)はサイズの制御が困難であり,構造欠陥が避けられなかった。
研究グループは,この問題を打破するには,ボトムアップの有機合成的アプローチの開拓が必要でと考えた。ダイヤモンド骨格の構成要素である10炭素の環状構造を持つ有機分子アダマンタン(Ad)のC−H結合をすべて取り除けば,ダイヤモンドになることは想像できたが,その実現方法が問題だった。
研究グループは,高速・高分解能電子顕微鏡法(SMART-EM)を活用し,Ad結晶に電子線(80–200keV)を照射してNDが生成する過程をその場観察し,Adオリゴマーから球状かつ欠陥のない立方晶NDが,水素ガスの生成を伴って生成する様子を確認した。
具体的には,Ad5(5量体)からAd8への展開が,~9×109nm2(e−)−1の一次反応速度で,さらにAd17からAd26への成長が~12×109nm2(e−)−1という,ほぼ同じ一次反応定数をもって進むことがわかった。
このダイヤモンド骨格が成長する様子を,オングストローム以下の空間分解能とミリ秒レベルの時間分解能で映像記録した。この反応の速度論的解析と電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせた詳細な解析を行なった結果,電子線により最初にAd分子がイオン化して,C–H結合が選択的に開裂し,生じたラジカルが二量化を繰り返すことでAdの多量化が進行してダイヤモンド骨格が成長することがわかった。
この知見を生かした,注意深い条件設定によってNDの収率100%合成を低温・低圧下,短時間で達成した。従来法と異なり,反応の精密制御が可能であることから,2−8nm程度の狭いサイズ分布をもつ単結晶かつ完全に球形のND合成を実現した。反応を更に進めると,単結晶が互いに融合して多結晶の球形NDを合成できる。
研究グループは,この研究は,統計力学的手法により反応機構を明らかにした点において学術的に独自性があり,電子線照射による精密な有機合成法として,有機合成化学の新たな可能性を示すものだとしている。




