東京大学の研究グループは,赤外分光法と反射高速電子回折法という2つの手法を組み合わせることで,不均質核生成によって生成したナノ薄膜氷の構造が,アモルファス氷(膜厚15nm以下)→立方晶氷(膜厚15nmから50nmまで)→六方晶氷(膜厚50nm以上)と,ナノ薄膜氷の膜厚に依存して3段階で変化する新しい氷成長メカニズムを発見した(ニュースリリース)。
極中間圏雲(夜光雲)は,夏の極域で高度80km付近にできる特別な雲で,極端に冷えた環境と水蒸気が必要。地球温暖化によりCO2やCH4が増えると,中間圏では逆に冷却と水蒸気の増加が進み,この雲の発生を促する。そのため,極中間圏雲は気候変動の早期指標とされ,気候変動のカナリアとも呼ばれる。
しかし,その形成メカニズムや内部構造にはまだ多くの謎が残されている。特に,雲を構成する氷の構造については,六方晶氷とされるのが一般的だが,極中間圏雲の氷は非常に微小なため,他の構造である可能性も指摘されている。
このようなナノサイズの氷について,極限環境を模した実験で構造を明らかにした研究は極めて少なく,極中間圏雲の実態は,発見から140年以上経った今でも大きな謎に包まれている。
研究グループは,赤外分光法と反射高速電子回折法という2つの手法を組み合わせた独自の装置を開発し,中間圏の温度・水蒸気分圧環境で生成した氷の構造を調べる実験を行なった。具体的には,120Kに冷却した基板に,10-6Paという低い圧力で水蒸気を暴露することで,基板表面に氷を作製した。
極中間圏雲の氷の構造を調べるためには,氷のサイズをナノスケールで制御する必要があるが,今回の研究では赤外分光法を用いることで,氷の膜厚を5nmから65nmまで正確に定量することに成功した。
作製したナノ薄膜氷について,反射高速電子回折法を用いて構造解析を行なったところ,膜厚が15nm以下ではアモルファス氷が生成し,膜厚が15nmを超え始めると立方晶氷と呼ばれる準安定状態の結晶氷が生成し,私たちが普段目にする六方晶氷はナノ薄膜氷の膜厚が50nmを超えたときに現れることを発見した。
いっぽう,基板温度は120Kのままで暴露する水蒸気圧を一桁大きくすると,膜厚に関係なくアモルファス氷が生成し,立方晶氷や六方晶氷は生成しないこともわかった。さらに,水蒸気圧は10-5Paであっても基板温度が130Kの場合は,アモルファス氷は生成せず立方晶氷と六方晶氷が生成することがわかった。
研究グループは,今後,この研究で得た新たな氷成長メカニズムに基づいて極中間圏雲の氷の構造について理解が進むことが期待されるとしている。




