京都工芸繊維大学,北海道大学,富山大学,九州大学,東京農業大学,京都大学は,モデルコケ植物であるヒメツリガネゴケを用い,地球の6倍と10倍の重力環境での栽培実験を行なった結果,重力の増加により植物の丈は短縮する一方で,植物体数と葉緑体のサイズは増加し,光合成が活発になることを明らかにした(ニュースリリース)。
水中から上陸した初期の陸上植物は,重力増加への適応が重要な課題だった。一般に陸上植物は,体を支えるために頑丈な細胞壁を発達させているが,細胞壁の強化は,大気から葉緑体への二酸化炭素の取り込みを妨げ,光合成や成長を抑える可能性がある。
そこで研究グループは,進化の記憶を色濃く残すモデルコケ植物であるヒメツリガネゴケを用い,地球重力の10倍の過重力で重力増加環境を人工的に再現した。その結果,ヒメツリガネゴケの光合成速度や成長が増加することを見出した。
しかし,その遺伝的機構は不明であったため,今回,ヒメツリガネゴケを実験材料とし,独自に開発した過重力実験装置を用いて,光を照射しながら長期間(8週間),地球重力の3倍,6倍,10倍の環境で栽培を行なった。
その結果,6倍と10倍の重力では,葉緑体のサイズが拡大し,茎葉体の数が増加し,これらの変化により大気中の二酸化炭素が葉緑体に届きやすくなり,光合成速度が向上していると考えられたという。
6倍,10倍の重力では同時に,茎葉体の長さが短縮していた。全ゲノムを対象に網羅的な遺伝子解析をするトランスクリプトーム解析(RNAseq)を行ない,重力の大きさの変化に応じて活性化される遺伝子群を調査したところ,特にセン類に特有のAP2/ERF転写因子をコードする遺伝子群の発現が顕著に増えていた。
そのうちの1つについて,人工的に発現を誘導して働きを高めたところ,通常の重力下でも茎葉体の長さが短縮し光合成が促進されるなど,10倍の重力で得られたものと同様の形質を示した。一方,この遺伝子の働きを抑制するとその逆の形質を示すことも分かったという。
このようにこの転写因子は,小さなコケで光合成を増やす”強い力”を持つことから,昔話に登場する小さな英雄にちなんで「ISSUNBOSHI1(一寸法師1)」と命名した。「ISSUNBOSHI1」を含むAP2/ERF転写因子は,植物が5億年前に陸上へ適応する際の進化において重要な役割を果たした可能性があるとする。
この成果は,光合成能力が高く収穫量が多い植物の開発につながる可能性があるもの。研究グループは,さらに将来,重力環境が地球とは異なる宇宙での農業生産に役に立つことが期待されるとしている。




