名大,微生物が光合成をストップする過程を解明

名古屋大学の研究グループは,葉緑体と同じ祖先をもち植物と同じ光合成を営む微生物シアノバクテリアを,光合成ができない暗闇で長期間培養を行ない,光合成の能力の変化を調べた(ニュースリリース)。

ススキの根に寄生するナンバンギセルや地中の菌類に寄生するギンリョウソウは被子植物だが,光合成の能力を完全に失っている。被子植物以外にも光合成生物が光合成能力を喪失する例が数多く知られている。

これらの光合成生物はおそらく,光合成を必要としない環境に適応していく進化のプロセスで光合成の能力を失ったと考えられる。しかし,実際に光合成を喪失する具体的な進化の道筋を観察した例はなかった。

研究グループは,シアノバクテリアを長期間暗所で培養し,光合成の能力がどのように変化したのか調べた。その結果,調べた28株のうち大半が光合成で生育できなくなっており,そのほかの株も光合成での生育が非常に遅くなっていた。

その一方で,すべての株は暗所での呼吸による生育が向上していた。また,これらの暗所適応株は水色から黄緑色など非常に多様な色調を示すようになった。

これら28株すべてのゲノムを解読したところ,全部で90個の突然変異が見つかり,このうち19個が一つの遺伝子に集中していた。そこで,この遺伝子の機能をあらためて調べてみたところ,この遺伝子に突然変異が起こると,光合成での生育が低下し,呼吸による暗所での生育が向上することが分かった。この遺伝子を光合成と呼吸をスイッチするホスファターゼという役割にちなんでphsPと名づけることを提案した。

光合成は光のエネルギーでCO2から糖を作る過程であり,呼吸は糖を分解してエネルギーを取り出す過程。これらは互いに真逆の反応なので,同時に起こるとエネルギーが無駄になってしまう。このようなことが起こらないように,シアノバクテリアは,通常は,PhsPの作用で,光合成を活発にさせる一方で呼吸を低いレベルに保つようにしている。

ところが,糖がいつも得られる環境で長い間生きているうちに,このphsP遺伝子への突然変異が高い頻度で起こると考えられる。この突然変異体は,光合成が低下するけれども呼吸が活発になるので,暗いところではずっと早く増殖ができる。この環境でさらに世代を重ねていくうちに,最後には,別の突然変異が起こって光合成が完全に失われていったと考えられる。

研究グループは,今後は,この新しい光合成と呼吸の調節メカニズムの解明と,光合成が失われるプロセスの具体的な道筋の解明につながるとしている。

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