豊橋技術科学大学の研究グループは,シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803におけるロッド状フィコビリソームの光波長依存的な制御の実態を明らかにした(ニュースリリース)。
シアノバクテリアは多様な環境条件下で光合成を行なうために,光合成アンテナタンパク質複合体であるフィコビリソームを巧みに利用して光を集めている。フィコビリソームの形状には,半円状やロッド状など,多様な形態が存在することが知られている。
特に,光の波長(光色)に応じてフィコビリソームの構造や機能を調節する現象は「光色順化(Chromatic Acclimation:CA)」と呼ばれ,これまでにCA1からCA7までの7タイプの存在が知られている。CA1タイプの光色順化では,ロッド状フィコビリソームの形成に必要な鍵タンパク質であるCpcLが緑色光下で特異的に合成され,それ以外の光条件下では抑制されることが先行研究で明らかとなっていた。
シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803は初めて全ゲノムが解読された光合成生物であり,分子生物学研究において最も広く使われているモデルシアノバクテリア。全ゲノム解析の結果,Synechocystis sp. PCC 6803はCpcLとその合成を光色によって調節する制御系遺伝子を持つことが示唆されていたが,その制御機構の実態はこれまで不明だった。
研究グループは,光色順化を行なう他のシアノバクテリアの解析を通じて,光色によるフィコビリソーム合成のON/OFF制御が非常に厳密に行なわれていることをこれまでに明らかにしてきた。ところが,今回解析対象としたSynechocystis sp. PCC 6803では,ロッド状フィコビリソームの光波長依存的な制御が存在することが示されたが,その制御は他のシアノバクテリアと比較して厳密でないことが明らかとなった。
研究グループは,このような制御の違いが生じた理由として,フィコビリソームが吸収する光の波長が関係している可能性があるという新たな仮説を提唱した。
研究グループは今回,光合成生物として初めて全ゲノムが解読されたモデルシアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803において,光合成アンテナタンパク質複合体(フィコビリソーム)の光の色に応答した調節機構を明らかにした。
Synechocystis sp. PCC 6803は,分子生物学研究において最も広く利用されているシアノバクテリアであり,研究グループは今回の成果について,光合成の分子メカニズムの理解やより高効率な物質生産の実現など,基礎および応用研究の進展に貢献することが期待されるものだとしている。