京都大学,大阪大学,岡山大学は,高効率二酸化炭素変換を進行する錯体触媒内蔵型の有機高分子光触媒を開発した(ニュースリリース)。
光反応の効率を示す指標の一つである反応量子収率が30%を超える値が報告されている,比較的高効率なCO2変換用光触媒には,ルテニウムやレニウムなどの希少金属が光吸収部位として用いられてきた。
これら希少金属を用いることで,光吸収によって生じる励起状態あるいは電荷分離状態が長寿命化し,反応効率が高くなると報告されている。一方で,これら希少金属からの脱却を目指し,有機材料を光吸収部位として活用する光触媒系の開発が近年盛んに行なわれている。
特に,2種類の異なる有機ユニットを連結した高分子材料において,両ユニット間で電荷分離状態を形成させる戦略が注目されてきたが,このような有機高分子を光吸収部位として用いた二酸化炭素(CO2)変換では,比較的優れたものでも量子収率が数%程度にとどまっていた。こうした背景から,希少金属に頼らない光吸収部位を有する光触媒の開発,およびその設計指針の確立が望まれている。
研究グループは,多様な共役系有機分子骨格から,ドナー,πスペーサー,アクセプターとして適した3種類の組み合わせを選択し適切な配列で繋ぎ合わせ,アクセプター部位に金属錯体からなる反応中心を導入することで,従来系をはるかに凌駕する高効率な光触媒を開発した。
連結した各有機ユニット間のエネルギー準位差を制御することで,天然光合成も採用している,多段階のエネルギー傾斜を形成し,電極や導線に頼ることなく光触媒材料内部で,自発的に電荷分離状態を形成可能な設計指針を確立した。
実際に光吸収によって生成した励起電子が速やかに反応中心へと移動し,優れた電荷分離状態を形成できることは超高速分光測定と理論計算により明らかにした。光触媒構造を最適化することで,炭素・窒素・水素・酸素・硫黄からなる有機高分子を光吸収部位とした光触媒により,可視光の照射によるCO2変換の量子収率は最大32.2%に達し,0.48mol/Lの高濃度のギ酸を生成することに成功した。
反応量子収率は,上述した2種類のユニットを連結した従来系の18倍と飛躍的に向上し,これまで報告されている有機分子骨格のみの光吸収で進行するCO2還元光触媒反応で最も高い値を記録した。
研究グループは,今後は本光触媒設計を様々な分子変換反応へと適用するとともに,天然光合成と同様に豊富でクリーンな水を反応剤とした分子変換反応,すなわち真の人工光合成反応の実現を目指すとしている。