東京科学大学とハーバード大学は,ダイヤモンド量子センサを用いて磁性材料の交流磁気特性を高精度に可視化する技術を開発した(ニュースリリース)。
パワーエレクトロニクス分野において,動作周波数の高周波化が進む中,軟磁性材料の低損失化はインダクタや変圧器など多様な機器の効率向上に不可欠となっている。
磁性材料の開発においては,エネルギー損失に関わる磁気特性を測定・イメージングすることが重要な指針となるが,従来の測定では高周波域での磁気特性をイメージングすることが難しいという課題があった。
研究グループは,kHz帯とMHz帯で異なる量子計測シーケンスを組み合わせることで,これまでは困難だった数MHzまでの広い周波数範囲で磁場をイメージングする方法を確立した。具体的には,ダイヤモンド中に形成した膜厚数µmのNVセンタ層が局所的な磁気センサとして動作する装置構成を検討した。
NVセンタから発せられる赤色蛍光をカメラで撮影することで,磁場がイメージングされる。今回の研究では量子力学を活用し,量子操作に用いるマイクロ波の照射の方法を工夫することで,高周波帯域でのイメージングを試みた。
kHz帯域を得意とするQurack法およびMHz帯域を得意とするQdyne法を用いることで,kHz帯-MHz帯の交流磁場の周波数をカメラが追従可能な帯域までダウンコンバートする技術を開発した。
コイルから発生する交流磁界をイメージングし,100Hzから2.34MHzまでの広い周波数帯域に渡って,狙った通り,一定の結果が出力された。また,交流磁気特性のイメージングでは高周波インダクタ用CoFeB-SiO2薄膜を測定対象とした。この試料は高周波動作におけるエネルギー損失を抑えるために,面内の磁気特性の非対称性(一軸磁気異方性)が付与されている。
そのため,面内のある方向と90°回転させた方向に磁界を印加した場合で,全く異なる特性を示すことが期待される。実際の結果として,ある方向(困難軸方向)に磁界を印加した場合は,100Hzから2.3MHzまでほぼ類似する傾向を示した。
しかしながら,90°回転させた方向(容易軸方向)の場合は,周波数の増加に伴い,位相が遅れる様子が示された。前者は周波数に対して軟磁性材料中のエネルギー損失が一定であること,後者はエネルギー損失が増加することを示唆するという。
研究グループは,今回の研究成果は,パワーエレクトロニクスを中心に,スピントロニクス・磁気記録など幅広い分野への応用が期待されるものだとしている。