矢野経済研究所は,国内の衛星データ活用サービス市場を調査し,関連市場規模,需要分野別の動向,将来展望などを明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,従来,人工衛星から得られる画像や各種データは利用料(販売価格)がかなり高額であった上に,データ品質面や機能面での限界もあり,需要先は限定的であった。
しかし,近年では衛星データ利用料の低廉化が進み,かつ収集データの多様化(光学衛星画像データ,SAR(合成開口レーダー)衛星データ,その他各種センサーデータなど)や,データ品質の向上(解像度の向上)なども進展したことから,従来の官公庁・自治体需要(官需)だけでなく,様々な民間需要(民需)の開拓が進んでいるという。
衛星データ・画像の活用領域としては,行政の一般業務(土地測量/家屋異動判読,放棄地確認など)に加えて,防災関連業務,社会インフラ監視,農林水産・畜産(圃場モニタリング業務など),自然・地理/環境計測,金融(保険額算定支援,先物市場向けデータなど),建設・土木(地盤変動監視,建設進捗管理,建機・重機の自動運転支援など,物流(海運,陸運などでの位置情報・トラッキングデータなど)等のビジネス・業務支援用途などがある。
時系列的にみると,衛星データ活用ビジネスは2000年頃まではほぼ官需に依存していたが,2000年代に入ってからは徐々に民需が拡大している。ただ,現状ではまだ官需が牽引しており,2024年度の衛星データ活用サービス市場では,全体の9割弱が官需の見込みだとしている。
今後も官需はマーケットの中心的な存在を占めるが,徐々に民需の伸び率が上回るようになり,2030年度の官需比率は8割ほどに低下すると予測した。
なお,生成AIを始めとしたAI活用シーンの広がりは,人工衛星から得られる画像や各種データ自体の価値を高める効果があり,結果として衛星データ活用ソリューションサービスの価値向上による衛星データ活用ビジネスの追い風となっているという。
特に,民需向け衛星データ活用では,画像やデータと連動したAI活用での期待が大きい。例えば,社会インフラ監視において衛星画像による劣化診断が可能になれば,従来の目視点検による点検モデルを変えるソリューションとなる。これにより,目視点検といった人手による点検から,衛星画像解析点検による効率化の実現が期待されるとしている。
将来展望として,2023年度の衛星データ活用サービス国内市場(事業者売上高ベース)は,前年度比13.0%増の182億円となった。2023年度はコロナ禍によるプロジェクトの保留・見合わせが一段落し,予定していたプロジェクトの再稼働が追い風となり,主要ベンダーにおける関連売上高は好調であった。
併せて需要家サイドでの人手不足の影響や業務効率化に向けた取り組みが進展し,衛星データ活用サービスが採用している。2024年度は,有力宇宙ベンチャーが好調であった上に,大手ITベンダーの衛星データ活用ソリューションの取り組みも堅調に推移する見込みだという。
さらにJAXA戦略宇宙基金に牽引される形で,周辺領域における衛星データ活用に関わるPoCが進展したこともあり,市場は引き続き高伸長を継続し,2024年度の衛星データ活用サービス国内市場は同11.0%増の202億円を見込んだ。