理研,テラヘルツ波による細胞膜の相転移誘起を発見

理化学研究所(理研)は,テラヘルツ照射が細胞膜の相転移を誘起する現象を発見した(ニュースリリース)。

THz波はマイクロ波やミリ波よりも高周波数の電磁波であり,次世代無線通信(6G)などの産業利用が期待されている。また,最近では高強度なTHz波光源の小型化・低価格化が進み,さまざまな分野での応用が探索されている。

そのような状況で,THz波の生理作用の理解は,安全基準の確立や,新しい医療技術開発のためにも重要。これまで多くの研究者が生細胞にTHz波を照射し,THz波が誘起する生命現象を研究してきた。

従来,THz波が細胞に吸収されても,細胞を温める作用しかないと考えられており,THz波の生体への照射影響は温熱効果のみといわれてきた。しかし最近の研究によって,細胞種によっては温熱効果では説明のつかない,非熱効果を示すことが明らかになっている。

研究グループは,この非熱効果を調べるために,独自にTHz-FRAP蛍光顕微鏡を開発した。この装置では,細胞膜に蛍光染色を施したHeLa細胞に対し,一部をレーザーで退色させ,退色した部分に周囲から蛍光分子が拡散して回復する様子を観察する。この回復速度から分子の拡散係数を計算し,THz波照射の有無による違いを比較することで,THz波が細胞膜に与える影響を評価する。

実験では,0.1~0.5THzの連続波を用い,温度の上昇を正確に補正しながら照射実験を行なった。その結果,THz波を照射しない場合,低温では細胞膜の構造が整い分子の動きが抑えられる傾向があったが,0.10および0.29THzのTHz波を照射すると,低温でも分子の拡散が促進されることが確認された。これは,THz波が秩序化した脂質二重膜を無秩序化していることを示している。

さらに,細胞膜の相変化を調べるためにLaurdan蛍光色素を用い,脂質膜の秩序・無秩序状態に応じた蛍光の波長変化を測定した。GP指数により評価したところ,THz波照射によって秩序化が抑制され,膜が無秩序化される現象が確認された。

このような変化は,脂質分子に加え,それに隣接する水分子の運動にもTHz波が影響を及ぼした結果である可能性が高いと考えられるという。これにより,THz波の非熱的な生理作用が実証されたとする。

研究グループは,今回の研究成果は,THz波の生体安全性の評価に加え,今後のバイオ・医療分野におけるTHz波の応用を広げる基礎的知見となることが期待されるとしている。

その他関連ニュース

  • 産総研,AI技術で導波路の接続状態の良否を自動判定 2025年06月20日
  • パナら,仮想化端末でテラヘルツ波を超広帯域伝送 2025年05月21日
  • 神大ら,テラヘルツ波で内耳の非破壊3D観察に成功 2025年03月31日
  • 福井大ら,生体への影響観察に高強度THz波装置開発 2025年03月27日
  • 浜ホト,テラヘルツ波検出モジュールの量産化に成功 2025年03月13日
  • 筑波大ら,トポロジカル相からカオスへの転移を発見 2025年01月30日
  • 埼玉大ら,分子の光反応の磁場効果を蛍光顕微鏡測定 2025年01月22日
  • 東北大,受容体の動きを4色の蛍光色素で同時に観察 2024年10月15日