東京大学,国立遺伝学研究所,神戸大学は,長く謎とされてきたアメーバにおける光共生の適応的な意義と共生藻類の隠れた多様性を明らかにした(ニュースリリース)。
光合成をしない生物が微細藻類を細胞の中に共生させる光共生という現象は多種多様な生物系統でこれまで確認されてきた。光共生研究がこれまで比較的進んでいたサンゴやイソギンチャクが属する刺胞動物の仲間は細胞内に渦鞭毛藻類や緑藻類などを,ミドリゾウリムシなどが属する繊毛虫は緑藻類を共生させる。
これらの生物では共生藻類が細胞内にいない白化状態を人為的に誘導することができ,共生している状態としていない状態の比較解析が行なわれてきた。多くのアメーバ状生物を含む,アメーボゾアという大きな真核生物グループ内でも数種で光共生が報告されていたが,白化状態の誘導などの細胞操作技術が確立されていなかったことから,その適応的意義や細胞生物学的な仕組みの理解はほとんど進んでいなかった。
今回,研究グループは共生藻類であるクロレラ類緑藻と,その宿主アメーバであるMayorella viridis(マヨレラ・ビリディス)との光共生系を用いて,光共生アメーバの細胞内から共生藻類を除去する人為白化系を確立することに世界で初めて成功した。
白化状態の細胞は,餌生物を十分に供給することによって,共生状態と遜色なく生存・増殖ができることが示された。また,共生状態と白化状態の比較実験から,共生藻類を細胞内に保持することが,飢餓環境におけるアメーバの生存能力を向上させていることが明らかになった。
さらに研究グループは白化状態のアメーバ細胞に微細藻類を再び取り込ませる共生操作技術と,微細藻類の種類ごとに共生能力を評価する系を作出した。こうした共生能力の解析と遺伝子情報を利用した系統解析から,この種アメーバには共生能力の異なる系統的に離れた2種類のクロレラ類緑藻が共生していたことも明らかになった。
研究グループは,この種のアメーバの光共生現象が報告されてから約150年の間不明であったその適応的意義や共生藻類の多様性が今回初めて明らかにされたことで,光共生の普遍的な仕組みの理解が進むことが期待されるとしている。