東大,光の偏光面が回転する電場誘起旋光性を巨大化

東京大学の研究グループは,電場印加に比例して光の旋光性が誘起,制御される現象「電場誘起旋光性(linear electrogyration)」を巨大化することに成功した(ニュースリリース)。

電場の印加によって試料を透過した光の偏光面が回転する電場誘起旋光性は,光の偏光状態を電気的に制御できる現象として知られている。この現象はさまざまな結晶材料において観測されるものの,その回転角は通常極めて小さく,実用的なデバイス開発に向けた大きな課題となっていた。

今回,ニッケルチタン酸化物(NiTiO3)の単結晶において,この電場誘起旋光性を大幅に増強できることを明らかにした。NiTiO3は「フェロアキシャル物質」として知られ,結晶構造に自発的な回転歪みを有するという特徴がある。

研究では,近赤外領域のエネルギーに相当するニッケルイオン(Ni2+)の特定の電子遷移に着目し,電気双極子遷移と磁気双極子遷移の干渉の大きさが巨大化する波長領域で測定を行なった。その結果,低温環境下では電場誘起旋光性の係数が約8×10-3deg/V に達し,これまで強誘電体材料のPb5Ge3O11にシリコンやクロムを添加した場合に報告されていた最大値(3〜12×10-3deg/V)に匹敵する効果が得られることを実証した。

さらにNiTiO3の持つ「回転歪み」に着目し,単結晶試料を適切に積層することで電場誘起旋光性を人工的に増強できることを示した。具体的には,逆向きの回転歪みを持つ単結晶試料を透明電極を介して交互に積層し,それぞれの向きの回転歪みの結晶に逆向きの電場を印加することにより,同じ厚さの1枚の単結晶試料に比べて電場誘起旋光性の大きさを積層枚数倍に増大できることを実証した。

この積層構造では,層数に比例して効果を増強できるため,研究グループは,将来的には省エネルギーで高効率な偏光制御デバイスに応用されることが期待されるとしている。

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